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「ノイン、その痣はどうした?」

 レッドはノインと二人きりで話したあの日から、ノインと薬草園でよく話すようになった。

 話の内容は他愛ないものが多かったが、レッドは元の世界に戻るヒントの為に、ノインの話は何でも聞いた。レッドが聞き役に徹していたおかげか、始めのうちは固くなっていたノインも、しだいにリラックスし、レッドに対して過剰な低姿勢にならずに接することが出来るようになっていた。

 今日もいつものように、お喋りに興じようとレッドは薬草園に来た。薬草畑の端で作業中のノインを見付け、後ろから近付いたのだが、ノインの腕に、痣があることに気が付いた。痣は肘より下、腕の表と裏に二つ。いつもは長袖で隠れている場所だった。

 レッドに痣を指摘されて、ノインは腕まくりしていた袖を急いで直す。

「作業中にぶつけまして……」

 仕事中についた痣にしては、なんだか態度がおかしい。ノインはレッドと目を合わせようとせず、視線がさ迷っている。

「き、今日はお早いのですね」

 レッドはいつも、仕事を全て終わらせてから、薬草園に来ている。その為、ノインと話せるのは、日が傾く少し前くらいになる。今日はまだ、午後を少し回ったところだった。

「明日、医者に行くことになった。それに備えて、仕事が早めに終わったんだ」

 記憶が一向に戻らないということで、念の為、医者に診てもらうことになった。記憶喪失は嘘なのだから、大事を取る必要はない。どうせ暇ならと、ノインを手伝う為に、レッドは早めに薬草園を訪れた。

「どこかお身体の調子が悪いのですか?」

「いや、違う。ただの検診なんだ」

 痣のある場所を見ながらレッドが答えると、ノインは腕を身体の後ろに隠した。

 痣の理由を隠したいと言っているも同然だった。

「それは良かった。……あ、そういえば、頼まれていたことを聞いて来ました」

 頼まれていたこととは、記憶喪失者がいなかったか、他のレキアントに聞いてほしいと頼んだ件だろう。ノインはわざとらしく話を変えてくる。

 何でついた痣なのか、聞き出したいところだが、ノインが嫌がっている以上、もう聞くことは出来ない。

 しかたなく、レッドはその話にのった。

「ああ、ありがとう。どうだった?」

「誰も聞いたことがないそうです。港で外から来たものにも聞いてみましたが、同じでした」

「そうか……」

 残念な結果に、レッドは顔を俯かせ、眉を寄せる。

 元の世界に戻る為の情報は、思うように集まっていない。

 早く帰らなければならないのに。

 戦っている最中に、レッドはこの世界に飛ばされた。レッドがいきなり消えたという異常な事態に、きっとピンク達には撤退の命令が出ただろう。あのレキアントも思わぬ状況に油断しただろうし、ピンク達は逃げられた。と希望的観測をしてみるが、全滅したという最悪な可能性が、レッドの脳裏をよぎる。なるべく考えないようにしているが、嫌な想像は日ごとに多くなっていた。

 この世界に来てからもうすぐ一カ月だ。

 焦ったってどうしようもないのは分かっていたが、レッドは帰る為の糸口を早く見付けたかった。

 あとは文献の類か……。

 文献については、早くから考えていた。執事のセバスにそういった本がないか聞いたり、街に出て探したりした。しかし、文献探しには大きな問題があった。

 字が読めない。

 この世界の文字は、レッドの世界の文字と全く違っていた。街でそれっぽい本を見付けても読めず、ノインに読んでもらったら児童書だったということもあった。

 そもそも、こんな小さな街に、文献があることの方がまれということもある。

 いっそ様々な文献がそろうような、もっと大きな街に移動すべきなのだろうが、レッドにはとにかく金がない。生活するのにも金がかかるが、本を買うのにも金がかかる。

 それ以前に、文字を学ぶのにもっと時間がかかりそうだった。

 そうなると、現在のベストはこの屋敷で金を稼ぎつつ、文字を学び、この近辺で情報を収集するということになる。

 時間がかかり過ぎる。

 こんなことしか出来ない自分の不甲斐なさに、レッドは歯噛みした。

「いかがされましたか?」

 ノインの声に、レッドはハッとした。

 ノインがレッドを窺うように見ている。考えに没頭していて、ノインをないがしろにしてしまった。

「すまない。何でもないんだ」

 ノインにいらない心配をさせてしまったと、ノインを安心させる為に、レッドは笑顔を見せて頭を撫でる。

「さて、今日は時間があるから俺も手伝うよ。何をしたらいい?」

「いえ! そんな大丈夫です」

「いやいや、遠慮せず。いつも色々してもらっているし、何か手伝わせて」

「でも、あとは水を撒くだけなんです。」

「そうなの?」

「はい」

 ノインは駆け出し、畑の真ん中に立った。両手を天に向けて腕を大きく広げる。

「イズルオリョクリュウ」

 ノインの頭上に、大きな青色の二重円が現れる。ノインの両腕の長さより大きなものだ。その二重円の真ん中から、大量の水が帯のように現れ、空に向かう。そして、水の帯は回転し、畑一面に水の粒を飛ばした。

 降って来る水の粒から、レッドは顔をかばうように腕を上げ、空を見上げる。

 水が太陽の光を反射し、キラキラと輝いていた。

「見て下さい! 虹です!」

 ノインの方を見ると、水の帯は消え、その代わりに、空に大きな虹が現れていた。

 ノインが虹に手を伸ばす。

「キレイですね!」

 ノインは畑の真ん中から、畑の端にいるレッドに向けて叫んだ。レッドの場所からでも、ノインが晴れやかな顔で笑っているのが見える。

 レッドは手を振って、ノインに返事をした。

 緑に囲まれ、煌めく水降る中、虹の下で笑うノイン。

「本当にキレイだ」

 レッドは誰にともなく呟いた。


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