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ノインの薬草の採取はほぼ終わっていたので、レッドとノインは一緒に山を下りた。道中、レッドはノインに積極的に話しかけ、屋敷に戻って来た頃には、ノインの笑顔の数もだいぶ増えていた。
二人は裏口から屋敷に入り、話しながら玄関ホールに来たところで、執事のセバスに呼び止められた。
「何をしているのですか?」
ノインがすぐに頭を下げる。
「ちょうど山から帰って来たところで、別に何も」
レッドはノインより一歩前に出てセバスに答えた。
セバスは眉を寄せ、レッドを訝しむように見る。
「他には?」
「他? 何もしていませんよ」
レッドはセバスの態度に、ムッとなりながらも答える。
「なら何故それといるのですか?」
それと言いながら、セバスがちらりとノインを見る。
またか、とレッドは内心でため息を吐いた。
そんなにノインと一緒にいるのがおかしいというのか。
「あなたにノインの居場所を聞いて、ノインに会いに行きました。それで、山でノインに会って、今、一緒に帰って来た。それだけです」
セバスはノインが絡むとしつこくなる。
本当にうんざりする。
「会いに行った? それに?」
……うんざりではなく、イラつく、だな。
「ええ、そうです。それが何か?」
また何か言おうとセバスが口を開いた時、玄関ホールに他の男の声が響いた。
「ノイン」
レッドが声のした方を見ると、階段の上にレイドクラフトがいた。見下すような目で、レッド達の方を見ている。
「仕事だ」
玄関ホールがシンと静まり返る。
ノインは先ほどの場所から動かずに、俯いている。
「ノイン!」
レイドクラフトがノインに怒鳴った。ノインを睨み付けている。
「……はい」
ノインはレイドクラフトに返事をすると、俯きながら階段に向かった。ノインが動いたのを見て、レイドクラフトは北棟への扉に消えていく。ノインはそれを追い、セバスもその後に続き、北棟へ消えていった。
玄関ホールに一人残されたレッドは、閉められた北棟の扉を無言で見つめる。
ノインの様子が変だった。
いつものノインなら、レイドクラフトが呼ぶ前にはそばに控える。
ノインのそれは従順というより、盲従という言葉がふさわしいほどだった。先ほどのノインは、今までのノインからは考えられない態度で、レッドはノインのことが心配になる。
その日、レッドがノインに会うことはなかった。
次に会った時には、いつものノインに戻っていて、何があったか聞ける雰囲気ではなく、レッドは聞くチャンスを失った。
北棟にはノインの態度を変える何かがあるのかもしれない。
しかし、レイドクラフトに雇われている立場のレッドには、それを調べる手段は何もなかった。




