少女の回想
一時間前
女の子視点
ザシュ…
肉を切る音が聞こえた
顔に生暖かい何かがつく
これは…血?
誰の?
ドサリ…
今まで前にあった二つの黒い影がゆっくりと倒れた
倒れた影を見る
折り重なるように倒れているのは、私を産んでくれた、育ててくれた、優しくしてくれた、撫でてくれた、叱ってくれた、守ってくれた……
両親の体だった
「う…そ…」
背中からドバドバと血を流す両親の姿が信じられなかった
信じたくもなかった
お昼ご飯を食べてたらいきなり現れて、何がなんだがわからないまま村は火の海になった
黒い鎧を着た人…その人が今、目の前で両親を斬った
両親を殺した
「嫌だ…嫌だ嫌だやだやだ!お母さん!お父さん!」
すがるように両親の体を揺する
手に赤い血がついても、必死に両親を呼ぶ
「お母さん!お父さん!」
「…ぁ…逃げ…なさい…」
「お母さん!」
すると掠れた声が、お母さんの声が聞こえた
「お母さん!早く起きて!逃げよ!」
「お母さんは…いいから…早く…」
「そうだ…早く…早く…」
続いてお父さんの声も続く
「いや!お母さんもお父さんも一緒に逃げよ!」
叫ぶ
「逃げて…おね…がい…」
「頼む…生きてくれ…」
小さな声だ
しかし、我が子を守ろうとする意思は大きく、必死に叫ぶ
「お願い…」
「お願いだ…」
「いや!」
私は叫んだ
叫んで、泣いて、体を揺する
そして、いつしか両親の声は聞こえなくなった
「お母さん…?お父さん…?」
呼びかける
返事はない
「お母さん!お父さん!」
叫ぶ
返事はない
すると…だ
「おい!そこの奴!生きてるぞ!」
声が聞こえた
きっと黒い鎧の人が来る
怖い、すごく怖い
体が動かない
手は震えている
怖い…
「逃げ…て…」
私は走り出した
何も感じなかった
何も思わなかった
ただ、走っていた
ただ、逃げていた
そして…