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 既に店内まで入ってきたその女性は、無遠慮にグルリと周りを見回した。


 あたしも無意識にその女性を頭のてっぺんからつま先まで観察する。

 お局と呼ばれていた会社員時代の悪い癖だ。


 落ち着いた雰囲気から、30代前半くらいに見えた。

 前下がりのボブにしたサラサラの黒髪は、首が見えるくらいの位置で切り揃えられている。

 例えるならクレオパトラか。

 もしくはデザイアー歌ってた頃の明菜ちゃんか。

 その髪型に良く合う切れ長のアーモンド形の黒い目。

 元からの肌色なのか、冬だと言うのに褐色に近い肌と濃い目のアイライナーのお陰で、更にエキゾチックな雰囲気だ。

 短めのモスグリーンのジャケットと、ショートパンツから出たスラリとした長い足に履いたニーハイブーツは、カモシカのようなスタイルの良さを十二分に引き立たせていた。


 文句のつけ様がない。

 あたしと対極にいる本物のモデル級美人だ。

 でも、その美しさとは裏腹に、あたしは何か引っ掛かるモノを感じていた。


「まだ開店してなかったんですね。勝手に入ってきてしまってすみませんでした」


 陸上自衛隊みたいな凛と張り詰めた声で、女性はあたしに向かって口を開いた。

 一応、謝罪の言葉は口にするものの、その美人の口には少しの笑みも見られない。

 何となく、ツンケンした雰囲気なのだ。

 美人故にそう見えてしまうのか、もしくはビジュアル的に完全に負けてるあたしのやっかみなのか……。

 多分、やっかんでる事を自覚していたあたしは、一応、営業スマイルで対応する。


「モーニングは八時からですが、占いとか、降霊とかを御希望ですか? それなら、店長が来てからになりますので、午後3時以降にもう一度来て頂きたいのですが」

「これから仕事なので、その昼間には来れません。夜は何時まで営業してるんですか?」

「あ、夜なら何時でもいいですよ。店長は不定休ですので……」


 不定休ではないけど、株の他に何をしている訳でもなさそうなあの店長なら、何時まででも構わないだろう。

 あたしは適当に返事をした。

 彼女は知的な黒い瞳でジっとあたしを見つめる。

 その妖艶な視線に、女のあたしの胸がドキドキしてしまう。

 な、なんだ、この吸引力!?

 美女だけに与えられた魅惑のフェロモンなのか???


「じゃ、仕事帰りの夜9時頃に伺います。予約取っておいて下さい」

「わ、分かりました! 店長にそう言っておきます。あ、予約のお名前は?」

「佐々木涼子ささきりょうこです。依頼したいのは『降霊』。呼び出して欲しい人がいるの」

「あ、はい! それならウチの店長の十八番オハコですよ! どちら様をお呼びいたします?」


 あたしの営業トークを聞いても、彼女、涼子さんはニコリともしなかった。

 せっかくの美人なのに勿体無い。

 いや、美人故に、スマイルの安売りはしないのか???

 彼女は、あたしに冷たい視線を投げかけると自嘲的に言った。


「私もこんな店に頼るようになったらお終いね。正直言って、死んだ彼と話ができるなんて思ってないの。でも、何かしなくちゃケジメがつかなくて……」

「はあ。そうなんですか……?」


 どーゆう意味だ?

 最初からイカサマだと言われてるようなモンだけど、美人故に言い返せない。

 と、いうより、彼女の重たげな雰囲気が、周りの全てをシャットアウトしているようだ。

 とてつもない閉塞感の前に、あたしは黙るしかなかった。

 少し考えてから、決心したように彼女は凛と顔を上げた。


「呼び出して欲しい人は私の大学時代の先輩です。三年前に自殺してるの。あたしは彼が自殺した理由を知りたい。そして、彼の敵を討ちたいのよ」


 思い詰めたその顔は真剣ソノモノで、あたしは茶化す気にもなれず、神妙な顔でコクコクと頷いた。


 これは、ヤバイ……!

 自殺した先輩なんて、また悪霊の類だったら、結城店長どーすんの!?

 呼び出したはいいが、簡単に体を乗っ取られてしまうヘタレ店長は、霊をお話するだけの『降霊』には向いている。

 でも、攻撃的な霊だった場合、自らがモンスターと化して大暴れしてしまう危険があるのだ。

 まあ、その時には、うちの専属ガーディアン・孝之が何とかしてくれる筈……。

 あたしは頭で軽くシュミレーションして、そう結論を出した。


「分かりました。店長に言っておきます。では、夜九時ですね?」

「宜しくお願いします。あ、その亡くなった先輩の名前は『井沢孝之』さんです」


 ナヌ!?

 今、何ってった……!?


 あんぐり口を開けたままその場に硬直したあたしをよそに、涼子さんはパリコレのモデルのようなターンをして店から出て行った。



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