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「刹那のぬくもり、そして……」 1~7  作者: 建野海
「刹那のぬくもり、そして……」
3/7

三話

 ブログ連載小説のひとつです。

「だから、お兄ちゃんは三年前に事故で死んじゃったんだよ」


リビングの椅子に座り、目の前にいるお兄ちゃんに向かって私は教える。


「いや、でも俺は生きてるぞ?」


訳が分からないといった顔でお兄ちゃんは答えた。端から見たら何を言ってるのだろうという会話だが、私達にとっては大真面目だ。


「でも、私は三年前にお兄ちゃんの火葬をして、遺骨をお墓に入れたんだよ」


「うわ、なにそれ。目の前にいる本人に言うことじゃねえだろ」


「だってホントのことだし……」


「う~ん。ますます訳が分からんな」


今の状況が理解できないのか、お兄ちゃんは頭を抱えて悩みだした。


お兄ちゃんが再び私の前に現れて一時間。再開の感動から思わず泣いてしまった。それも号泣。


お兄ちゃんにもすごい慰めてもらって甘えてしまった。冷静になってみると、すっごく恥ずかしい。


ひとまず落ち着いた私は鼻水と涙にまみれた顔を洗面所で洗い、リビングに戻って自分の遺影を見て苦笑いをしていたお兄ちゃんに現状説明をした。


「もしかしたら幽霊なのかな? それだったら納得がいくし」


「いやいや。お前さっきおもいっきり俺に抱きついてたじゃん。触れてるから違うだろ」


「ちょっと、そのことはもういいでしょ。それに触れてるのは私の霊感が強いからかもしれないじゃん」


「お前漫画の読みすぎ。悪いがお前にそんな力はない」


ひどい。そんなに否定しなくてもいいのに。あくまで例えで言っただけなのに。それに、私そんなに漫画読まないし。


「じゃあなんだって言うの?」


私の問い掛けにお兄ちゃんはう~んと唸り、


「タイムスリップとか?」


私の予想よりよっぽど非科学的なことを言った。


「却下。お兄ちゃんくだらなすぎ。私の予想よりひどいじゃん」


「そうか? あながち外れてないと思うけどな」


子供のようにお兄ちゃんは無邪気に笑う。


やっぱり目の前にお兄ちゃんはいるんだと改めて実感して、私もつられて微笑んでしまう。


「そういえば母さんいないけど、どっか行ったのか?」


何気ないお兄ちゃんの問い掛けに私ははっとする。


……そうだ! お母さん! お兄ちゃんがここにいることがお母さんにもわかれば、お兄ちゃんの存在が確かに存在することが確定するはず。


私は自室に戻り、携帯電話を持ってきて電話を掛けた。宛先はお母さん。


車で移動中で着信に気がつかないのか、お母さんはなかなかでない。


早く、早くでてよ。


そう思うと同時に電話が繋がった。


『もしもし?』


『もしもし、お母さん?』


『どうしたの、千春? 何かあった?』


何かあったなんてものじゃない! お母さんも驚くことだよ。


そう伝えたいのをグッと我慢した。今にわかる。


『実はお母さんに紹介したい人がいるの』


『なに、誰なの?』


そこで私はお兄ちゃんに電話を渡した。


お兄ちゃんは、「代わるの?」と小声で尋ねたので、返事の代わりに電話を押しつけた。


『あ~えっと、母さん?』


緊張しているのか、お兄ちゃんは視線を辺りにさ迷わせている。その光景がおかしくって私は笑ってしまった。


『えっ……あ、はい』


お母さんの声が聞こえないため、どんな話しをしているのか聞こえない。こんなことならスピーカーにしておくんだった。


『いえ、違います』


『そうです……』


『はい、わかりました』


しばらくお兄ちゃんの返事を聞いていてあることに気がついた。


何か違う。会話に違和感を感じる。


……そうだ、敬語。お兄ちゃんの会話がずっと敬語なんだ。


なんで? これじゃあ他人の会話だ。


『ああ、そうですか。それじゃあ千春に代わります』


そう言ってお兄ちゃんは私に携帯を返した。通話はまだしている。


『お母さん?』


『なによ、紹介したい人って男友達のことだったのね』


お母さんの言葉に私は絶句する。


違う、違うよ。お母さん、何でわからないの?


『お母さん、わからないの?』


『わからないって、なにがよ?』


『今の電話の相手お兄ちゃんなんだよ……』


『……なに言ってるのよ、千春。私が佳祐の声を間違えるわけないわ。今の電話の声は佳祐とは全く違ったわよ』


『えっ!?』


『あんたやっぱりまだ無理してるのよ。この間あの子の命日だったし……。しばらくゆっくりしてなさい』


『ちょっと、まっ……』


私が答えるまえに通話は切れた。


私は携帯を握りしめたまま呆然とその場に立ち尽くした。


どういうこと? お母さんがお兄ちゃんのこと間違えるわけないし、冗談を言ってる雰囲気でもなかった。


それに、お兄ちゃんだってわかってなかったけど、存在は認識していた。


私はアイコンタクトでお兄ちゃんに意見を求めるが、お兄ちゃんも理解できてないのか、困ったとお手上げのジェスチャーを私に返すだけだった。


なら、一体目の前にいる“彼”は何なのだろうか?



「祈りを貴方に、手紙を君に」の一章の三話目になります。

 この話では突然現れた兄の謎を妹である千春が解明しようとします。しかし、謎は明かされるどころか更に深い謎を呼んでしまいます。

 しかも、現時点で自分以外にも正しく兄を認識できると考えていただけに母親に兄の存在を否定されたときのショックは少なからずあったと思います。



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