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「刹那のぬくもり、そして……」 1~7  作者: 建野海
「刹那のぬくもり、そして……」
2/7

二話

 ブログの連載小説のひとつです。

「それじゃあ、お疲れ。また大学でな」


一緒に旅行をした友人たちと別れて、俺は電車に乗った。


車内は満員とまでは行かないが、座る場所がほとんどないため、肩にかけていた旅行用のボストンバックを床に置き、手摺りに捕まる。


空いている片方の手には家族へのお土産が入った大きな袋がある。中には母さんへ渡す旅行先の名物の菓子と、受験生の妹、千春へ買った合格祈願のお守りが入っている。


……にしても千春のやつ結構怒ってたな。


昨日の電話でのやり取りを思い出して俺はため息を吐いた。


受験前という大事な時期。それも、受験まで日が余りないため、千春もストレスが溜まってたに違いない。


そんな中、旅行先から土産の電話をするなんてことは少々軽率なことだった。千春が怒るのも無理はない。


やっぱ、帰ったらちゃんと謝らないとな。


車内で揺れに身を任せること一時間。目的の駅に着いたため、荷物を持って電車を降りる。


改札口を抜けて駅の外に出る。太陽の陽射しが眩しい。旅行から帰って来たのを祝ってくれているかのようだ。


家に帰るためのバスに乗ろうとバス停へ向かおうとすると、お腹がきゅ~と可愛らしい音を立てた。


そういえば朝から何も食べていない。どこか近くにある店にでも行って飯でも食べよう。


今いる場所から周りを見渡す。少し離れた場所にうどん屋が見えた。よし、あそこにしよう。


横断歩道を歩き、うどん屋までの道の間にある公園を抜ける。


公園を抜けるとうどん屋のすぐ近くにある横断歩道に着いた。ここを通れば終わりだ。


信号は赤、行き交う車が止まるのを待つ。


一応母さんにもうすぐ帰るって連絡入れとくか。


ポケットに入っている携帯電話を取り出す。ちょうどその時、信号が青に変わることを告げる音が鳴った。


携帯電話のディスプレイを見ながら横断歩道を渡る。


……一瞬。


世界が止まった。


背中に強い衝撃。あ、空飛んでる。いたい、イタイ。なにこれ? 車?


あっ……俺、跳ねられた。


ゴキッと嫌な音が響いた。温かい何かを感じる。思考が定まらない。


……なんだか、やけに、さ、む、い、な……。



……あれ? ここどこだ。


「佳祐! 佳祐!」


おかしいな、母さんの声がする。


「しっかり、しっかりしなさい」


「……ぁさ……ん」


うまく声がでないな。それになんだかふわふわする。


「けいすけ!」


…………。




「兄ちゃん、そこどいてよ」


……えっ?


「兄ちゃんだよ、兄ちゃん。俺たち今からブランコ使うんだから」


目の前に小学校低学年くらいの少年が二人いた。


「俺のこと?」


「そうだよ。さっきからずっとブランコに座ってボーッとしてるじゃん。使わないならゆずってよ」


「ゆずってよ」


少年達の言葉を聞いて確認すると、俺は確かにブランコに座っていた。


「うわっ! ごめんね。今退くから」


すぐさまブランコから立ち上がり、待っていた彼らに譲った。


「ありがと~」


二人ともお礼を言うと、早くもブランコを漕いで遊びだした。


やれやれ。ビックリしたな。それにしても、俺はあそこで何してたっけ?


必死に思い出そうとするが、思い出せない。


う~ん。ホント何してたんだろ。


ふと周りを見てみる。子供を連れた母親がたくさんいた。そう、ここは公園だ。


そうだ、そういえば旅行から帰ってきて腹が減ったから飯を食おうとしてたんだった。


ようやく目的を思い出した。たしか、この公園を抜けた先にあるうどん屋に行こうとしてたんだった。


目的を思い出し、さぁ行こうと決めたとき、何か違和感があることに気がついた。


なんか、足りない。


全体的に体が軽い。あるべきものがない。


……荷物がない!?


ついさっきまで持っていた荷物がない。辺りを探してみるが、見つからない。


もしかして盗まれたのかも。だとしたら、最悪だ。バイトで貯めたお金で買ったルイヴィトンの財布がボストンバックの中には入ってる。あれ、高いのに。


それに、お土産! せっかく千春の機嫌直すためにお守り買ってきたのに……。このまま帰ったら、なんか俺が意地になって怒ってるみたいだ。千春のやつ絶対許してくれない。


想像しただけでゾッとした。このままだとまた家に一緒にいるのに無視される。正直あれはキツい。前に無視されたのは千春が作った料理にダメ出しをしたときだ。


素直に美味しいかどうか言ってくれと言われたから、


『俺が作ったのより不味いから頑張れ。なんなら教えてやるぞ?』


と言ったら一週間無視された。あの時は泣きそうになった。


それにしても見つからない。しょうがない、警察に連絡するか。


ポケットに入ってる携帯電話を出して、連絡を入れようとする。


……ない。ない! なんでない!


携帯電話もなかった。服にある全部のポケットを探すが見つからない。


ボストンバック、お土産、携帯電話。荷物は全てなくなっていた。


……そういえば、今何時だ?


携帯電話がないので、公園にある時計を確認する。時計の針は午前八時を指していた。


時間おかしいだろ。こっちに戻ってきたの昼頃だぞ。もしかして、公園で疲れて寝たのか?


よくわからない現象に動揺する。


……もう、家に帰ろう。


いろいろなことが一気に起こり、頭の中で処理が行えない。ひとまず家に帰ることにした。




公園から一時間以上歩き、ようやく家に着いた。母さんの車がない。どこかに出かけたのか?


玄関のドアを開けようとするが、鍵がかかってた。


めんどくさいなと思いながら、玄関近くに置いてある植木鉢の一つを持ち上げ、家の鍵を取り、鍵を開けて家の中に入る。


「ただいま~」


返事がない。千春のやつまだ寝てるのか……。


靴を脱ぎ捨て、リビングに向かう。リビングに入ると、こたつの中に見知らぬ女性がいた。


……えっ? だれ?


近づいてよく見てみると、それは千春だった。髪の色は変わり、長さも長くなってる。髪を染めてエクステでもしたのか!?


「おい、千春」


まさか、これほど怒ってるとは思わなかった。まずい、グレやがった。完璧に受験を捨ててやがる。こんな髪じゃ絶対に受からない。


「お~い、起きろ」


反応がない。


「お~い、起きろ」


もう一度声をかけると反応があった。眠たそうにしながら起きる千春。だけど、俺の顔を見た瞬間、信じられないものでも見るかのような表情を浮かべた。


おいおい、さすがに帰ってきていきなりそんな顔されるのはキツいぞ。やっぱりまだ怒ってるのか……。


「おい、なんだよ。まだ怒ってるのか? 髪なんか染めて、お前学校どうするんだよ。俺が悪かったって。だから返事してくれよ、千春」


千春はしばらく黙ったままだった。


「おにい、おにいちゃ……おにいちゃ~ん」


しかし、いきなり泣き出した。


「え、えっ? なに? どうした、千春。なんかあったのか?」


突然のことに驚くが、ひとまず落ち着かせるために頭を撫でて慰める。


千春は俺の体をギュッと強く抱きしめた。さすがにちょっと恥ずかしい。


気まずさから視線を逸らすと、部屋の隅にある仏壇が見えた。


なに、あれ?


そこには、笑顔で映った俺の写真が飾られていた。


「祈りを貴方に、手紙を君に」の一章の二話目になります。

 この話では妹の千春から兄である佳祐へと視点が変わります。

 物語に存在する主人公はこの千春と佳祐の二人であり、一話ごとにそれぞれの視点で話が進む形式となります。なので、同じ出来事でもまったく違う考えやものの見方がされているので一度で二度楽しめるようになっています。



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