悪役令嬢お姉様は潜在的百合?血の繋がらない妹の私に抉られるなんて、ありえない!
第1章 悪役令嬢の妹に転生したけど、お姉様の様子がおかしい
私、前世はどこにでもいる普通の女子高生だった。唯一の特技は乙女ゲームの全ルート・全CG・全エンドを制覇すること。そんなある日、横断歩道を渡っていたら、信号無視のトラックにはねられてあの世行きになった。
目を覚ますと、体が沈み込むほど柔らかい大きなベッドの上にいた。天井には繊細な壁画が描かれ、空気にはバラとシトラスが混ざった甘い香りが漂っている。
ベッドの側に少女が立っていた。
金髪に紅い瞳、人形のように整った顔立ち。一目で高価だとわかる濃い紺色のワンピースを身にまとっている。彼女は私が目を開けたのを見ると、心配そうな表情が瞬く間に嫌な顔に切り替わった。
「やっと起きた?丸一日寝ていたわ。死んじゃったのかと思ったわ」
――この第一声、この容姿、口調、金髪紅眼の組み合わせ。私は一瞬で思い出した。
クロエ・フォン・オースティン。乙女ゲーム『星の恋語』の悪役令嬢。伯爵家の長女で、作中では平民ヒロインが王子たちに近づくのを邪魔し続け、最後に卒業舞踏会で正体を暴かれ、名声を失って家族ごと流罪になる運命の人。
そして私は、今、彼女の妹になっていた。血の繋がらない妹だ――母が私を連れてオースティン家に再婚したので、クロエとは一滴も血が繋がっていない。
やばい。乙女ゲームの世界に転生してしまった。しかも悪役の妹だ。
「何をぼんやりしているの?」クロエが眉をひそめる。「寝ぼけたの?」
私は彼女を見つめ、頭の中で情報を高速整理する。ゲーム内ではクロエの妹についてほとんど描写がなく、「妹が一人いるが仲が悪い」とだけ触れられていた。つまり今はゲーム本編が始まる前。まだ時間はある。
私は彼女を救わなきゃ。どうしても。彼女はお姉様だ。今は態度が悪いけれど、まだ何も悪いことはしていない。
今日から、クロエ・フォン・オースティンを悪役にさせないための矯正計画を始める!
悪役矯正計画、初日。
「お姉様、おはよう」
「ふん」
「お姉様、今日の髪型すごく綺麗だよ」
「き、急に何を言っているの」彼女は顔をそむけるが、耳の先が赤く染まっている。
「お姉様、一緒に朝ご飯食べよう」
「……勝手にすれば」
効果あり!このお姉様、ストレートな褒め言葉にめちゃくちゃ弱い。ゲームにはこんな設定書いてなかった。そうだ、原作では妹はお姉様と仲が悪かったから、褒めるなんてしないもんね。
計画、一週目。
毎朝一言褒めて、朝食を共にし、午後にはお茶を飲みに通う。最初は「うっとうしい」と言っていた彼女が、「勝手にしろ」、そして「今日はどうして遅れたの?」へと変わっていった。変化は歴然だ。
だけど問題も生まれてきた。
「ノエル」ある日の午後、クロエはティーカップを持ったまま鋭い視線を向けてくる。「最近私にやたら優しいけど、何か目的があるの?」
「ないよ。ただお姉様が可愛いと思っただけ」
「か、可愛いって?!」彼女はお茶をこぼしそうになる。「何をでたらめを!私はオースティン家の長女よ、『可愛い』なんて言葉で――」
「だってお姉様、本当に可愛いもん。昨日お父様に叱られたあと、部屋に隠れてこっそりクッキーをかじっていた姿、すごく可愛かった」
「見てたの?!」
クロエは首まで真っ赤になり、手の中のカップが激しく揺れる。
「忘れて!今すぐ忘れなさい!」
「はーいはーい、忘れたよ」
(本当は忘れてないけど)
計画、一ヶ月目。
クロエの悪役らしい行動は明らかに減った。本来の流れなら、この時期にはもうヒロインに嫌がらせを始めているはずなのに、毎日私に引っ張られてお茶やおしゃべりに時間を費やしているせいで、社交界で難癖をつける暇なんてない。
「ノエル、今日は一緒に街へ買い物に行きなさい」
「お姉様、今日は子爵家のお茶会に行く予定じゃなかったの?」
「子爵家?そんな小物貴族のお茶会に行く価値なんてあるのかしら」彼女は鼻で笑う。「行かない。さあ、新しいドレスを試着しに行こう」
ほら、こうして危機を避けられた。
計画、三ヶ月目。
重大な問題に気づいてしまった。
「ノエル、あの女は誰?」
ある日庭で、私がメイドと二言三言話しただけで、クロエの表情が一瞬で冷え切った。
「メイドさんが落ちた本を拾ってくれただけだよ」
「彼女に拾わせる必要なんてない。呼んでくれれば私が拾ったのに」
「お姉様、その時は書斎にいたじゃん」
「じゃあ私が出てくるまで待てばよかった」
「本が汚れちゃうよ」
「その本は私より大事なの?」
「……お姉様、今日ちょっと変だよ」
「どこが変なのよ」彼女は顔をそむけ、声が小さくなる。「ただ……あなたが他の人と親しくするのが嫌なだけ」
え?
クロエの行動はどんどんおかしくなっている。褒めると顔を赤らめ、一緒にお茶を飲めば嬉しそうに笑い、私が他の誰かと話すと不機嫌になる。社交の場に行きたがらないのも、私の時間を独り占めしたいからだ。
これ、もう「仲の良い姉妹」の域を超えているんじゃないの?
第2章 お姉様の悪役ルート、どんどん歪んでいく?
社交シーズンがやってきた。
原作の通りなら、ここはクロエの悪役行動第一波のピーク――この期間のお茶会でヒロインを公然と辱めるのだ。私は隙を見逃さず監視しなければならない。
お茶会当日、クロエは深紅のドレスを身にまとい、圧倒的なオーラを放っている。私は小さなしっぽのように後ろについて回る。
「お姉様、今日は優しい人でいてね」
「ふん。私がいつ優しくないのよ」
「先週、執事さんに『こんなまずいお茶を入れたらクビにする』って言ってたじゃん」
「あのお茶は本当にまずかったのよ」
「執事さん、泣いちゃったよ」
「……わかったわ。今日はあなたの顔を立ててあげる」
原作ではヒロインのリリアンがお皿を持って不安定に歩き、クロエにぶつかって、「平民は躾がなっていない」と人前で嘲笑われる。私はそのルートを先回りして塞がないと。
案の定、リリアンが現れた。お盆を持ち、足元がおぼつかない様子でこちらへ向かってくる。
来た!私はすぐクロエの前に立ちふさがる。
「お姉様、あっちのケーキが食べたい。取ってきてくれる?」
「自分で取りなさいよ」
「お姉様ー」
「……もう、わかったわ。取ってくる」
クロエがケーキを取りに振り向いた瞬間、リリアンが隣を通り、私にもう少しでぶつかるところだった。私は彼女を支える。
「ごめんなさい!本当に申し訳ありません!」リリアンが慌てて謝る。
「大丈夫だよ、けがはない?」
「は、はい……大丈夫です……」リリアンは顔を上げて私を見て、一瞬固まったあと、顔を赤らめる。
「あの……ありがとうございます」
「どういたしまして」
リリアンは顔を赤くしたまま立ち去った。私はほっと息を吐く。クロエがケーキを持って戻ってくる。
「さっきの人は誰?」
「ん?知らない人。ぶつかりそうだったから支えただけだよ」
「……」クロエは目を細める。「彼女、何を話していったの?」
「ありがとうってだけだよ」
「なんで顔を赤らめていたの?」
「知らないよ」
クロエはケーキを私に押しつけ、あまり機嫌の良くない顔をする。
「今後、知らない人をむやみに支えたりしないで」
「お姉様、それは礼儀だよ――」
「だめって言っているの」
うわ、圧がすごい。
その後のお茶会も、私はずっと監視を続けた。クロエの社交場での様子は、誰もが予想しないものだった――ずっと私の方ばかり見ているからだ。私がケーキを食べれば見つめ、他の貴族令嬢と話せば見つめ、座ってあくびをしても見つめる。
社交界の評判はこうなった。「オースティン家のお嬢様、ずっと穏やかな笑顔で、自ら挨拶までする。威張ったところなんて全然ない!」
「そうよ、ずっと妹さんの方を見ていて、視線が優しいわ」
「まあ、噂は嘘だったのね。優しいお姉様じゃない」
私は社交紙の評判を見て、思い悩む。クロエの悪役設定は、奇妙な形で崩壊しつつある。しかもお茶会のあと、ヒロインのリリアンがわざわざ話しかけに来た。
「あの、あなたはオースティン家の……」
「ノエルだよ」
「ノエルさん!今日は本当にありがとうございました」リリアンは笑みを浮かべ、私の目を見つめる。その頬には、認めたくないけれど赤みが差している。
「どういたしまして。お姉様がそばにいなかっただけだから、気にしないで」
「お姉様……クロエお嬢様のことですか?」リリアンの視線が少し複雑になる。「今日の彼女は、噂と全然違っていましたわ」
「うん、本当は優しい人だよ」
「そうなのですね……」リリアンは私を見て、また微笑む。「ノエルさんは、本当に優しい方ですね」
ちょっと待って。なんでヒロインが私に笑いかけているの?原作のヒロインの攻略対象は王子たちのはずなのに。このルート、おかしくない?
第3章 お姉様の独占欲、ちょっとヤバいかも
社交シーズンが終わってから、クロエの「異変」はますます加速した。
具体的にはこんな感じ。
一つ目、求婚者を全て断った。伯爵家の長女ともなれば、多くの貴族が狙っているはずなのに、一人として会おうとしない。お父様は怒りで髭を逆立てているが、彼女はただ一言、「ノエルがいれば十分だもの」と言うだけ。
二つ目。ある日男爵家の令嬢が私に花束を贈ってくれた。クロエはにっこり笑って受け取ったかと思ったら、裏で暖炉に投げ込んだ。
「お姉様?」
「あら、この花に虫がついていたの。処理してあげただけよ」
「確認したけど、虫なんていなかったよ」
「なら目に見えない虫がいたの」
「……」
三つ目、私の服装にまで口を出し始めた。肩出しのドレスはだめ、襟元が低いのはだめ、スカートが短いのもだめ。私が着るものは全部彼女のチェックを通さないといけない。
「お姉様、このドレスのどこが悪いの?襟元だって普通だよ」
「目立ちすぎる」
「どこが?普通のドレスだよ」
「あなたが着れば、何でも目立つのよ」
「……は?」
クロエは最近、よく眠れていないみたいだ。
夜中にキッチンへ水を汲みに行った時、彼女の部屋の前を通ったら中から声が聞こえた。扉が少し開いていたので、隙間から覗いてしまう。
クロエはベッドの上に座って枕を抱え、窓の外の月に向かって独り言をつぶやいていた。
「私はノエルに対して……一体どんな気持ちなのかしら」
「姉妹同士で、相手を独占したいなんて思うもの?」
「彼女だけに自分を見てほしいと思うもの?」
「……彼女が笑うと、ドキドキするもの?」
私はコップを持ったまま、黙ってその場を離れた。お姉様、その問いかけ、ちょっと危険すぎる。でも今は向き合いたくない。先に寝よう。
第4章 告白されたけど、私が抉ったって?
バラ園。
午後、日差しが柔らかく、クロエが二人きりで散歩したいと言うので付き合った。バラが満開に咲き誇っている。彼女は真っ赤なバラの茂みの前で立ち止まり、私の方へ振り向いた。
表情は真剣だ。いつもより何倍も真剣だ。
「ノエル」
「ん?」
「話があるの」
「うん、聞いてるよ」
彼女は深く息を吸い込む。
「私があなたに抱いている気持ちは、姉妹としてのものじゃないわ」
私は瞬きを繰り返す。頭が追いつかない。
「最初は、ただ仲の良い姉妹としての親しさだと思っていた。だけど最近、はっきりわかったの。姉としてじゃなく、隣に立ってあなたを独占する人になりたいの」
彼女はまっすぐ私を見つめ、紅い瞳に迷いは一片もない。
「好きよ、ノエル。恋人として」
頭の中の歯車が五秒間固まった。
それから、転生してからの行動を一気に思い返す。毎朝褒めて、お菓子を作ってあげて、一緒に街を歩きお茶をして、お父様に叱られた時に盾になって、「ずっとお姉様と一緒にいたい」って言ったこと。
……確かに。確かに攻略しているみたいだった。
「ちょ、ちょっと待って!」私は手を上げる。「お姉様、気持ちは受け取った。だけど私も女の子だし、お姉様も女の子だよ」
「知っているわ」
「しかも妹だし。血は繋がってないけど、名目上は――」
「知っている」
「本気なの?」
「もちろん、本気よ」
彼女の口調は断固としている。
「毎日あなたのことばかり考えている。あなたがいないと落ち着かない。褒められると一日中嬉しい。他の人に話しかけられると腹が立つ。こんな気持ち、『好き』以外の何だと言うの?」
そのストレートな告白に、私は為す術もなくやられてしまった。
「だけど……」私はもがく。「私は、お姉様を悪役にしないためにやっていただけなの!」
「悪役?」
「そう!悪いことをして最後に流罪になっちゃうやつ。お姉様にそうなってほしくなかっただけ」
「じゃああなたは、他の人が悪いことをしても止めるの?私だけを止めるの?」
「お姉様だからだよ!」
「ただ、姉だから?」
「……」
「もし私が本当に悪役になったら、あなたは私から離れるの?」
「離れない!絶対に助ける方法を探す――」
「じゃあ、それはあなたも私を大事に思っているってことよ」
言い返せない。
「仮にそうだとしても」私は深呼吸する。「私はお姉様と恋人になるつもりはなかったの。ただ救いたかっただけ」
「じゃあ、私が悪役じゃなくなったら?」
「え?」
「悪役ルートから外れたわ。あなたの救いは完了した。そのあとは?」
「そのあとは……えっと……」
クロエは一歩踏み出す。距離が近くなり、バラの香りが濃く漂ってくる。
「毎日可愛いって褒めて、お菓子を作って、ずっと一緒にいたいって言って。それが全部、好きじゃないっていうの?」
「そ、それは――」
「あなたはまだ自覚していないだけよ」
彼女の言葉は自信に満ちていて、私は口を開いたけれど、反論の言葉が出てこなかった。
だって、少しだけ、彼女の言う通りな気がした。
「でも……少しだけそういう気持ちがあったとしても……」私の声はだんだん小さくなる。「これ、私がお姉様を抉っちゃったってことだよ?最初は善意だったのに、百合にしちゃうなんて!」
「今は?」
「今は……」私は顔を手で覆う。「わからない」
クロエが小さく笑い、私の手を取る。
「じゃあ一ヶ月、お試しで付き合ってみない?」
「え?」
「一ヶ月。恋人として私を見てみて。一ヶ月経って、やっぱりだめだと思ったら、私は諦めるわ」
「……本当に一ヶ月だけ?」
「一ヶ月だけ。約束する」
指の隙間から彼女を眺める。真剣で誠実な表情で、いつもの尊大な様子とは全然違う。
「……わかった。一ヶ月だけ。約束は守ってね」
「言ったことは守るわ」
彼女は笑った。すごく綺麗な笑顔だ。心の中で、この一ヶ月は思ったより大変になりそうだ、と思った。
第5章 百合悪役令嬢、最終回
お試し交際、一週目。
クロエは毎日会いに来て、恋人らしいことをたくさんしてくる――手を繋ぐ、肩を寄せ合う、ご飯を食べさせてくる。拒みながらも、心臓がドキドキする。このお姉様、恋愛経験はないはずなのに、なんで手慣れているの?
「ノエル、あーん」
「自分で食べるよ」
「私が食べさせたいの」
「やだ」
「あーん」
「むっ――」
強引に食べさせられる。彼女は嬉しそうに笑っている。
お試し交際、二週目。
もうあまり抵抗しなくなった。むしろ慣れてきた。クロエが手を繋いできても払いのけないし、肩を寄せられても逃げない。食べさせられても「やだ」とは言わなくなった。
お試し交際、三週目。
私の方から彼女を探すようになった。目覚めたらまずお姉様を探し、寝る前にも会いに行く。お姉様がいないと、何か足りない気がする。
やばい。私の方が攻略されかけている。
お試し交際、四週目。
彼女を見ていると、知らず知らず笑顔になる。彼女が他の人と話していると、少し気になる。夜におやすみを言いに来ないと、なかなか眠れない。
一ヶ月の期限が来た。
最後の日の夜、彼女が部屋に来た。
「一ヶ月、経ったわ」
「うん」
「答えは?」
私はうつむく。心の中にはもう答えがある。だけどこの答えを口にしたら、私が本当にお姉様に抉られたって認めることになる。転生した身としては、お姉様を救うつもりだったのに、自分まで巻き込まれるなんて。
「答える前に、一つ聞いてもいい?」
「何?」
「お姉様、もともと百合の気質があったの?それとも私に抉られたの?」
クロエは少し考えてから答える。
「どっちもだと思うわ」
「え?」
「男の人には元から興味がなかった。だけどあなたがいなければ、自分が女の子を好きだなんて、一生気づかなかったでしょうね」彼女は微笑む。「だから、あなたが本当の自分に気づかせてくれたの」
「それって、責任を私に押し付けてるみたいじゃん」
「責任、取ってもらうわ」
「取るなんて言ってない――」
「それで、答えは?」
私は深く息を吸い、小さな声でつぶやく。
「……私もお姉様のこと、好きだよ」
「え?聞こえないわ」
「だから、私もお姉様が好き!」
クロエは輝くように笑い、一気に私を抱きしめた。
「今日から、あなたは私の恋人よ」
「……うん」
「それに、私の妹でもあるわ」
「……妹っていうの、なくしてもいい?」
「だめ。妹兼恋人、最高じゃない」
私は彼女の肩に顔を埋め、これからずっとこうなるのかもしれない、と思う。最初は彼女を救うためだったのに、気づけば自分まで恋に落ちた。これは成功なのか、失敗なのか。
成功だ。お姉様は悪役にならなかった。失敗だ。私自身が抉られた。
「お姉様」
「ん?」
「これから悪いことをしようとしたら、ちゃんと止めるからね」
「安心しなさい。あなたがいる限り、悪いことをする暇なんてないわ」
「じゃあ、私が誰かにいじめられたら?」
「あなたをいじめる奴は、名声を地に落としてあげる」
「……お姉様、悪役にならないって約束したじゃん」
「身内を守るのは悪役じゃないわ」
私は笑った。まあ、これでいっか。
エピローグ 悪役令嬢と妹のその後の日常
社交界では、オースティン家の長女は相変わらず高貴で冷ややかな令嬢として扱われている。家に帰った彼女がどんな様子か、誰も知らない。
「ノエル~今日、私のこと想ってた?」
「お姉様、まず仕事を片付けて」
「片付け終わったよ。想ってた?」
「……想ってたよ」
「いい子いい子」
彼女はソファの上で私を抱きしめ、頭を擦り寄せる。外ではクールな令嬢、家では甘えん坊の大型犬みたい。
「お姉様」
「ん?」
「私たちの関係って何なの?姉妹?恋人?」
「どっちもよ」
「欲張りすぎじゃない?」
「欲張って何が悪いの」彼女は抱きしめる力を強める。「二つとも手に入れられるんだもの」
私は彼女の胸元にもたれ、天井を見上げる。
――乙女ゲームの世界に転生して、ただお姉様を救いたかっただけなのに、気づけば自分も抉られて、恋人同士になった。
人生、本当に何が起こるかわからない。
「ノエル」
「ん?」
「今夜は一緒に寝よう」
「……うん、いいよ」
まあ、こんな日々も悪くない。
(完)
あとがき
私はノエル。乙女ゲームの世界に転生した元普通の女子高生。今は元悪役令嬢で、恋人でもあるお姉様のクロエと一緒に暮らしている。
唯一の悩みは、彼女が時々悪役っぽい台詞を口にすること。
例えば、「ノエルに話しかけたあの商人、もう二度と姿を見せないでほしいわ」みたいな。
「お姉様、だめだよ」
「はーいはーい、手は出さないわ」彼女は笑って私の頭をなでる。「あなたの言う通りにする」
そう。私がいる限り、彼女は悪役にはならない。
だって、私こそが彼女にとって一番大事な「用事」だから。




