悪役令嬢の腐女子活動
国を滅ぼす悪役令嬢シリーズ
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の3話目です。順番に読んでいただけるとうれしいです。
5話分をまとめた連載版も投稿しました。
「国を滅ぼす悪役令嬢」
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あれっここは…。
目の前にはジェーン侯爵令嬢、平和な室内。
「マチルダ様は、貴重な聖魔法の使い手だから、国王陛下も丁重に取り図るようにおっしゃってましたし、殿下はそのお言葉に忠実に従っているだけだと思いますわ」
そして聞き覚えのあるセリフ。
もしやと思い、2回言ったことのあるセリフをもう1度口にしてみる。
「そ、それにしたって…、あの、こう毎日というのは、図々しくはないですかしら? 少しは遠慮してもよくはございません?」
「でしたら、わたくしがマチルダ様に『少しは遠慮なさい』と忠告してまいりましょうか」
やっぱり! 同じセリフだ! また時間が巻き戻ったんだ!
2回目だもんね、すぐに適応できちゃうわよ、ほほほ。
「それはいけませんわ、断罪ですから」
「?」
ちょっとはしょりすぎたけどまあいいや。
「あっいえ、お気持ちは嬉しいですけれど、ジェーン様のお手を煩わすことではありませんわ」
と言って優雅に微笑んでみせた。
ここは王立学園の中のティーサロン。
私は公爵家のクラウディア、王太子のアラン様と婚約している。
しかし聖女として転入してきたマチルダ男爵令嬢と、アラン様がいつも一緒なので、やきもきしている状態である。
そして私は、日本で生まれ育ち、この世界に転生してきた者であり、この世界のことは「日本で遊んだゲームの知識」として持っているので、マチルダ聖女にはとても嫉妬してるけど、感情のまま文句を言ってはいけないことがわかってる、文句を言ったら「神聖なる聖女をいじめた」と断罪されて、追放されてしまうのだ。
だから、私の数少ないお友達であるジェーンに、毎日愚痴るだけにとどめておいたのに、国を滅ぼしてしまった。
でも時間が巻き戻ったので、「今度は煩悩を運動で発散させよう」としたのに、また国を滅ぼしてしまった。
これはもしかすると、国を滅ぼさない展開になるまで、巻き戻しが続くのかもしれない。
さすがに3回目だから慎重にいこう。要点を整理する。
私はとにかく、親しげなアラン様とマチルダ様を見るのがつらい。
この気持ちをどうにかしたい。
つまり、アラン様のことばっかり考えてるからいけないのよね。
なんか他に熱中できることを探すのが一番な気がする。
おいしいものの食べ歩きは…太りそうだし…
やっぱ趣味とか…
趣味、乙女ゲームだったからなあ。あとはマンガを読むくらいで…どっちもこの世界にはないからどうしようかな…。
「そういえば、ちょっと見ていただいてもいいかしら?」
無言で考え事をしていた私に、ジェーンが羊皮紙を差し出した。
そこには男性の絵姿が描かれており…
「これは…エドガー様!?」
エドガー様は侯爵家の嫡男であり、ジェーンの婚約者だ。
アラン様とも親しい。
「うふふ、実は、しばらく彼とお会いする機会がなかったので、寂しくなって面影を絵にしてみたんですの。そしたらけっこう上手に描けた気がしたので、クラウディア様にも見ていただきたくなってしまって…」
と、ぽっと顔を赤らめた。
「けっこう上手、とかのレベルじゃないですわ…」
私は、姿絵のイケメンっぷりに悶絶していた。
ジェーンは、神絵師だった。
SNSにあげたら、すぐに数万いいねがつく、たぶん!
エドガーは、もともと見目麗しい方だけれど、これだけ単純化された線で、光り輝くようなイケメンを描くなんて、まさに神業!
「ジェ、ジェーン様…あの、あの、もしよろしかったら、アラン様を描いてみてはいただけませんか…?」
「え? アラン様? わたくしのつたない絵でよければ…」
大急ぎで侍女に筆記用具を取りにいかせ、「お願いします」とジェーンに渡す。
「あっ、できればナナメ右の、ちょい下向きの顔がいいです!」
「ナナメ右のちょい下向き…」
ジェーンはあごに指をあてて少し考えたあと、さらさらと
アラン様を描いてくださった。
「え! こんなに速く!?」と驚いた私は、絵を見てさらに
驚愕した。
尊い…!
美しすぎる…!
畏れ多くて目がつぶれそうな神絵…!
そしてさっきの、ナナメ左上向きのエドガー様の絵姿をテーブルに並べてみると、まるで見つめあってるように…!!
尊死…!
妄想が、妄想がふくらむ!
アラン様とエドガー様、おふたりの危険な関係…!!
きゃーっ! いかがわしいわ! 素敵!
あまりのお宝絵に、何も言えず口を半開きにして震える私。
「あ、あの…お気に召しませんでした?」
ジェーンが不安そうに聞く。
「めっそうもありません!」
私は、がばちょと音が聞こえるほどの勢いで振り向き、ジェーンの手を握りしめ、お礼を言った。
「神の手!この手は神の手です!こんな絵を見せていただけたら、わたくしの人生に一片の悔いなしですわ!」
「そ、そんなに喜んでいただけて、こ、光栄ですわ…」
ジェーンはドン引きしてる様子。
なぜだ。この麗しい2人の絵を見て、なぜ妄想を爆発させないのだ。
私は、こう、不謹慎でハレンチな妄想を語り合いたいのに…!
なんとか、仲間になってくれないだろうか…。
「ジェーン様…」
「はい、なんでしょう?」
「このおふたりが、手を握り合っている姿を想像してみてください」
「手? え? 握手ってことですか?」
普通そう思うよね。でも、思い切って踏み込んでみる。
「違います。恋人同士がするような手つなぎです」
「え??」
「ジェーン様。わたくしは、いけない妄想をしてしまうのです。もしも、この見目麗しいおふたりが、実は好きあっていたら、と」
「えええ? 男性同士ですわよ?」
「だからこそです! 身分違いの悲恋はよくあることですが、性別による禁断の恋をしていたら! ほらほらこの2人の絵姿を見てください。お互い想いあっているのに言えない、そんな雰囲気を感じませんか!?」
「そ、そんな、ありえません、エドガー様は…」
「そうですありえません。だからこその妄想。もしもの世界です! 非現実的だからこそ、フィクションとして楽しめるんですよ。どうですか、この2人が、秘めた愛を持っていること想像したら! ドキドキしませんか?!」
私は2人の姿絵を両手に持ち、ジェーンの目の前に広げた。
そして少しずつ紙を重ねあわせる。
「わ、わ、まるで今にも口づけをしそうですわ!」
「その調子です! さあもっとよく見て、ドキドキしませんか?!」
「し、します! どきんどきんしますううう!!!」
同志ゲットできた。
いけると思ったんだ。
中世ヨーロッパなら、こんな思想は処刑されそうだけど、ここは乙女ゲームの世界だもんね。
BL要素も必須なはずだもんね。
この妄想は素晴らしい。
私にとってのアラン様は、さっきまで「つれない婚約者」だった。でも今は「尊い推し」である。
自分が愛されなくてもいい、ただ物陰から応援したい。
聖女マチルダと一緒にいても、嫉妬する必要がない。
嫉妬するとしたらエドガーにだけど、応援してるからそれもない。
「ねえジェーン様、わたくしがお話を作るから、挿絵を描いていただけません? 2人で、イケナイ絵本を作りましょうよ」
「イケナイ絵本…! それは、ワクワクしますね…!」
「ですわよね! さっそくわたくし、お話を書いてきますわ!」
めっちゃ楽しくなってきた! お話を書いたことはないけど、好きだったBLマンガのあらすじを書くだけなので楽ちんだ。
転生してるんだから、パクリがばれることはないよね。
王太子とか個人が特定されると困るので、似顔にはせずに、とにかくイケメンがたくさん出てきて、優しめの、切なさ満載、手を触れあえたことがなにより幸せで涙するような、清らかな恋。
全年齢対象だとこんなもんよね。
そして、ジェーンにすんばらしい挿絵を描いてもらって、「ソフトBL絵本」が完成した。
「できましたわーーーー!」
「やりましたわーー!」
2人で手を取り合って完成を喜び合い、2人で一緒に読んでキャッキャした。
楽しい。楽しすぎる。
「このドキドキは、ぜひ他の皆様とも共有したいですわ」
ジェーンが恐ろしいことを言い出した。
「大量に制作して、市場に出しましょう。きっと世の乙女たちに喜んでいただけますわ!」
私もそれは考えた。みんなでキャッキャしたほうが楽しいに決まってる。
でも…、この世界の紙は羊皮紙なのだ。
羊の皮でできているのだ。大量に作るとなると、大量の羊の皮が必要になってしまうということだ。
そうすると、その後の展開が予想できてしまうのだ。
◇◇◇
羊は神に祈った。
神様、今日も同胞が殺されました。
食料にするためならまだしも、腐れた本を作るためにです!
自分たちの命を何だと思っているのでしょう!
どうか人間に復讐する力をください!
◇◇◇
ってなるに決まってる! そして神は、人間以外の祈りには、けっこう応えてくれるのだ。
3回目だから知ってる。
だから、絶対、羊の復讐で国が滅ぶ。
そう思うと大量生産には踏み切れない。
あれ? だいたい、大量生産するような印刷技術もないよね?
この時代って、書き写すことしかできないんじゃなかったっけ?
「でも、大量に書き写すのは大変でしょう?」
よし、こっち方向で、大量生産はやんわり反対しよう。
「あら嫌ですわ、複製スキルがあるじゃありませんか」
複製スキル??
ジェーンは絵本と同じくらいの重さの羊皮紙をテーブルに置いて
「なんじゃらもんじゃらげ~」と唱えた。
すると…
羊皮紙の束が絵本に変わり、絵本が2冊に増えた!!
こんなことできたんだ…。さすがだ魔法のある世界。
やだどうしよう。紙さえあればできちゃうじゃん。
「あの、でも、紙を作るために、羊が処分されるのがその、かわいそうというか…」
なんとか羊の復讐は避けたいから、もごもごと抵抗する。
「羊が? 処分? どうして?」
「いや、どうしてって…これ、羊皮紙ですわよね?」
「もう、いやですわクラウディア様ったら、どうなさったの? 羊皮紙が羊から作られてるわけじゃないことくらい、子供でも知っておりますわよ」
えっ! そうなの?
「羊皮紙を模してるから羊皮紙と呼んでますけど、これは廃材を錬成したものですわ。わたくしには錬成スキルはないので、自分で作ることはできませんけど…」
え!!!
「そ、それじゃあ、大量生産しても、羊は犠牲にはならない?」
「もちろんです」
やったああああ! ビバ! ご都合主義!
それなら大量生産しても大丈夫だよね??
みんなで腐沼にハマってキャッキャできるってことだよね!?
「作りましょう! いっぱい作って腐教しましょう!」
「ええ!」
私とジェーンは手を取り合って、大量生産と販売を決めた。
その絵本は大評判となり、国中の女子が買い求めた。
しかし、BLに免疫のない女子が、いきなり神絵の絵本を見たせいか、大量の鼻血を噴く者が続出した。
それは聖女マチルダも例外ではなく、盛大に鼻血を噴いた。
聖女の血は魔物を引き寄せる。
そして血の匂いで集まってきた大量の魔物に襲われ、
この国は滅ばされてしまったのであった。
どうやって滅ぼすかを考えるのは楽しかったです。




