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【完結】飛行狂リッチ様の観測記録  作者: 遠野 周


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第8話 形成の理

 ――結論から言おう。

 群れは、形になる前がいちばん騒がしい。


 ――骨は足りない。膜も足りない。風も落ち着かない。

 それでも、集まってくる。それが世界の癖だ。


 まずは素材集めだ。

 スライム膜を翼に、コウモリの骨を支柱に、火の玉を推進源に。

 そして――屍操によって、地面で眠る者たちを呼び起こす。


 骸たちが立ち上がる。

 その数、十を超える。

「……ぎゃあああ!!」

 コウモリたちが一斉に逆さ飛びした。


「安心したまえ。観測目的だ。」

「その説明がまったく安心できないんですけど!」


 リッチは淡々と指示を出す。

「スライム、膜を張れ。薄く、だが破れぬ程度に。

 火の玉、下から熱を与えろ。気流を作る。

 コウモリたちは周囲の風を読む。

 再演体アンデッドたちは、骨組みを支えろ。」


 不気味な調和が生まれた。

 ぬるりと光る膜、ぎこちなく動く骸、空を舞うコウモリ、

 そしてそれらの中心で静かに立つリッチ。


 火の玉がつぶやいた。

「なあ……なんか、怖ぇけど、綺麗だな。」

「構造が整うと、美は自然に生じる。」

「……骨が言うと説得力あるな。」


 夜風が吹いた。

 リッチは腕を広げ、低く呟く。


「風よ。

 君はいつも逃げる。だが今日は、私たちと共にあれ。」


 風が流れ、スライム膜が震える。

 火の玉が輝きを増し、アンデッドたちの骨が共鳴する。

 空気が一つの塊になった。


 ――“風の名残号”。

 理と屍と希望の混成体。


 それはまだ地面に縫いとめられている。

 だが、確かに空を求めていた。


「推進、三、二、一――点火!」

 火の玉たちが一斉に怒りを燃やした。

 熱風が爆ぜ、膜が膨らむ。

 地面の砂が舞い上がる。

 リッチが骨の歯をむき出しにして笑った。


「見ろ! 風が、形を保ったぞ!」

「それ、浮いてるってことですか!?」

「まだだ。これは“空を掴む手”だ。」


 コウモリが震えながら呟く。

「リッチ様……それ、飛べますか?」

「飛べるさ。風の答えはここにある。」

「……風の答えって燃えたり爆発したりしません?」

「しょっちゅうだ。」

「やっぱ怖い!!」


 それでも、

 誰も逃げなかった。


 風が吹く。

 霧が流れる。

 アンデッドたちが、空を見上げた。


 リッチは小さく呟いた。

「死んでもなお、上を向く。

 これ以上に生きている証があるか?」


 火の玉が笑う。

「リッチ、お前……本気で飛ぶんだな。」

「当たり前だ。理は祈りより高くある。」


 夜が深まり、試作機は静かに佇む。

 スライム膜に月が映り、風がそれを撫でた。

 リッチは記録を刻む。


 ――観測記録第72号:群体による揚力生成成功。

 ――補足:空は一人では作れない。

 ――余談:倫理的死者数ゼロ。観測的死者数十。


「風の名残号」――

 それは、まだ飛ばない。

 だが確かに、“群れ”はできた。


 そして、風の向こうで、空が笑っていた。


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