第3話 軽さは正義だ
――結論から言おう。
軽さは、正義だ。
私は机に頬杖をつきながら、今日の観測結果を整理していた。
風は押す。風は逃げる。
ならば――軽くなればいい。
“重いものは落ちる。軽いものは浮かびたがる。”
それはこの世界の癖だ。
ならば、軽くなればいい。
問題は……私のどこまでが“私”か、だ。
指の骨を一本、外す。
投げる。落ちる。
拾う。再装着。問題なし。
ふむ、想定通りだ。
次は腕。次は脚。
全部落ちた。全部戻った。
……退屈だな。
「頭だけでも、意識は残るのだろうか?」
背後で、モンスターたちがざわつく。
「やめましょうよ、リッチ様! 怖いですって!」
「観測する価値がある。」
ごろん、と外す。
視界が一回転した。
地面が近い。なるほど、これが“低重心”というやつか。
私は転がった頭蓋骨を拾い上げ、手に乗せて考えた。
「……軽いな。」
――実験、第二段階。
私は頭を高く放り上げた。
空へ、ぽーん。
浮かんで、落ちて――
その途中で、群れが通りかかった。
「ぎゃっ!?」「なんか飛んできたぞ!」
夜空を渡る無数の影。
コウモリの群れだ。
私の頭蓋骨が、見事にその群れのど真ん中へ突っ込んだ。
ばさばさばさ、と羽音が響く。
羽が風を裂き、気流が渦を巻く。
――そして、私は“風”を見た。
羽が動くたび、空気が形を変える。
波のように、音のように。
それはまるで、目に見えぬ糸が空を縫っているようだった。
私は、落ちながら呟いた。
「……これが、風の形か。」
地面に落ちる直前、翼の一枚が私をかすめた。
私は転がりながら笑った。
「すばらしい……風は、掴まれている!」
コウモリたちは上空で混乱していた。
「なんだ今の!? 骸骨!?」
「いや、頭だけだ!」
「やばい、見られた! 不死の王だ!」
私の頭は地面をころころと転がり、ゴブリンの前で止まった。
「リッチ様、だいじょうぶですか!?」
「……最高の観測だった。」
私は首に戻りながら、まだ夢中で呟いた。
「翼は風を掴んでいる!」
ゴブリンがぽかんと見上げた。
「リッチ様、何言ってるんですか?」
「世界の応答だ。」
夜空を見上げる。
遠くで、コウモリたちの群れが渦を描いていた。
あの羽音――あれこそ、風の音。
私はそっと骨の指で書き残した。
――観測記録第17号:軽さは正義。
――補足:風の流れを知ることで翼は風を捉える
――余談:分解中も意識は保たれる。次は“分割飛行”を試す。
風が頬の骨を撫でた。
重力が、静かに引き寄せてくる。
――重力は、優しい。
必ず、抱きしめてくれるからだ。




