23.駆け引きとは、勝負の前から始まっているものである。
先に仕掛けたのはパトリシアの方だった。
身の丈ほどもある大鎌をクルクルとまるでバトンのように軽やかに振り回し、まるでダンスでも踊るかのように優雅に傲慢の事を斬りつける。
それは幾度となく傲慢の身体を切り裂くが、次の瞬間にはまるで何もなかったかのように元に戻っていた。
「あらまぁ。"傲慢"ったら、すでに"命令"を頂き済みでしたの?」
欲しがりさんですわねぇ、と口角を上げたパトリシアは、
「それでこそ壊しがいがあるというもの。ガッカリさせないでくださいませね? ここ最近の私は、魔王さまの代わりに平和主義者を装っておりましたので、喰いでのある獲物に飢えているのです」
攻撃の手を一切緩めることなく連続的に斬りかかる。
「ワンパターン、だな」
その攻撃をいなし、足で軽く止めた傲慢は、
「お前の攻撃は1000年前から見飽きているし、知り尽くしている。いつだって力押しで、捻りがない」
悪魔らしく傲慢にそう言った。
「あなたは相変わらずの足ぐせですわね。相手を踏みつけることに躊躇いがない」
私の可愛い武器を踏まないでいただけます? と睨むパトリシアは傲慢の足をどけようと力を込める。
だが、ギリギリと嫌な音を立てるだけでびくともしない。
「お互い様だろう。お前だって雑草どもを踏みつけ、薙ぎ払い、喰らい尽くしてきたくせに」
パトリシアを覗き込み、その名の通りにと嘲笑する傲慢。
「……節操なく喰い荒らすような真似は飽きましたわ。今は縛りプレイがブームですの」
情報が古くてよ? と挑発を流したパトリシアに動じることのない傲慢は、
「いいや、お前の本質は何も変わちゃいない。お前の燃費が非常に悪い、ってところもな」
そう言って、そのままパトリシアの大鎌をへし折った。
「現代において境界線を渡るのは禁忌。通行料分の存在が消滅した気分はどうだ?」
「大したことありませんわ。私とクロアの思い出をあなたに穢された屈辱に比べれば」
パトリシアの空色の瞳が揺らぐ。
そこには"怒り"が読み取れ、傲慢は嗤う。
「いい顔になったじゃないか」
魔王が眠りについてから500年。
かつて異界の覇権を争うほどの実力者だった彼女は、粛々と命令を遵守してきた。
友との約束だけを心の支えにして。
現代において境界線を越えるということは、上級悪魔であっても簡単なことではない。そこに生まれた僅かな隙をついてユズリハを奪い、過去を改竄し、彼女の支えを踏み躙ってやった。
何をしても気にも留めないとお高くとまっていた悪魔の顔が怒りに歪む。
だが、異界ではない現世で彼女に為す術はない。
その事実は傲慢をひどく満足させた。
「哀れだな。階級証がない今のお前はその身体なしにこちらに留まれない。つまり、脆弱な入れ物の耐久性以上の力を出せないってことだ」
そう言った傲慢は一方的でパトリシアが死なないような攻撃を加え、屋根の上に組み伏せるとその背中に手を突き刺すと身体をぐちゃぐちゃと掻き回す。
「……屈辱ですわ。こうも好き勝手に身体を弄られるなんて」
睨んでいた空色の目が苦痛に歪む。
痛みを存分に与えながら、傲慢は目的のものを見つけると強引にパトリシアの身体から引き抜く。
現れたのは、真っ黒な黒い羽。
「片羽だけ、だと?」
「あげてしまいましたの」
愛しい方に、とにやっと口角をあげるパトリシア。
「それよりも、触りましたわね? 私の魔力に」
いつも通りの楽しげな口調でそう言ったパトリシアは、
「階級証の力を所持していないと扱えないのは下の下。アレは私の一部。どうしようもなく惹かれ合う」
身に覚えがあるでしょう? と囁く。
「喰らいなさい」
歌うようにそう言ったパトリシアに応えるように、水色の紋章が傲慢の身体に浮かび上がる。
「バカなっ、自爆する気か!?」
パトリシアを踏みつけて引き剥がそうとする傲慢。
「大喰らいの階級証をあなたが宥めるのが先か、それとも私の入れ物が朽ちるのが先か、all-or-nothing というやつですわ」
だが、パトリシアはそう言って傲慢の腕を離さない。
階級証によってどんどん傲慢の魔力が喰らわれていく。その魔力は全て階級証を通してパトリシアに還元される。
力押しの悪魔にその原動力である魔力を盗られるのが一番厄介だ。
だが、今なら。
「コレごとお前を処分すれば済む話だ」
そう判断した傲慢は胸元から水色の光を放つ球体を取り出して、
「お遊びはここまでだ」
とパトリシアに告げる。
その瞬間パンっと乾いた音が辺りに響き、傲慢が持っていた水色の階級証が砕け散った。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!




