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1.善意とは、必ずしもありがたいとは限らない。

新規連載はじめました!

ぜひ応援よろしくお願いします♪

 コツコツコツコツと真っ暗な回廊に足音が響く。

 ドアに手をかけようとして、グレイはピタリと動作を止めた。

 誰かがいる。

 警戒心を滲ませ、銃を構えたところで。


「嫌ですわ、旦那さまったら。結婚早々、妻を撃ち殺すおつもりですの?」


 背後から声がした。

 バッと振り返れば、楽しげな空色の瞳と目が合った。

 先程まで確かに部屋にいたはずなのに、背後を取られた。

 それは殺し屋家業を生業とし、その頂点に君臨しているグレイにとってありえないことだった。


「……パトリシア」


 先日、ヒトの根城に勝手に居着いた女の名前を呼べば、


「ふふ、名前を覚えて頂けたようで嬉しいですわ。旦那さま」


 淡いピンク色の髪がふわりと揺れ、淡く色づいた唇が綺麗な弧を描いた。

 一見、儚げな美女に見える彼女の外見に騙されてはいけない。

 警戒心を解かず、睨みつければ、


「まぁ、怖いお顔」


 パトリシアは鈴の転がるような声でそう言って笑った。


「あらあら、旦那さまったら今日は随分と素敵な匂いを纏っておいでで」


 今日は随分な数を相手にし、沢山の命を闇に葬った。

 軽く洗い流したくらいでは、落とせないほどに。


「……嫌味か」


「まさか!」


 やや芝居がかった口調でそう言ったパトリシアは淑女らしく礼をして見せ、


「さぁ、湯浴みの準備も夕餉の支度も整ってございます」


 とグレイに言った後、思い出したようにぽんっと手を叩く。


「ああ、もう一つ選択肢を忘れておりました。それともわ・た・く」


「風呂。んで、メシ。で、寝る」


 パトリシアの戯言を途中でぶった斬ったグレイは、


「お前の人間ごっこ(・・・・・)遊びには付き合えん」


 バッサリ言い捨てると銃をパトリシアに投げ渡し浴室に向かった。


「ふふ、いってらっしゃいませ。つれない旦那さま」


ーー数分後。


「って、なんで風呂にアヒルがいるんだよ!? それも、大量に!!」


 浴室を開けた瞬間、獰猛そうな顔をしたアヒルがそこにいた。

 目が合った瞬間、一斉に襲いかかってきたアヒルに狩られるかと思った。

 あの統率された動きはどう見てもカタギのアヒルではなかった。もっともアヒルに対しての表現として正しいかどうかは分からないが。


「まぁまぁ。随分とセクシーな格好ですわね、旦那さま」


 パトリシアは半裸で出てきたグレイの身体をガン見しつつ、


「喜んで頂けました? お疲れの旦那さまの癒しになればと私頑張りましたの」


 人間とは浴槽にアヒルを浮かべて眺める文化があるのでしょう? と言ってぽっと顔を赤らめる。


「結構大変でしたのよ。シャルテンから連れて来るの」


 シャルテンはこの国のちょうど真裏に位置する国。つまり1日で往復できる距離ではないのだ。普通の人間であったなら。

 善意100%で褒められ待ちのパトリシアに盛大にため息をついたグレイは、


「パトリシア、お前の人間情報ほぼほぼ全部間違ってんぞ」


 人間に本物のアヒルを風呂に浮かべる文化はねぇ!! と全力でツッコんだ。

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