表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

#悪役令嬢と訪問客

今日も朝からエヴァンス家のメイドたちは大忙しだ。掃除に飾り付け、ナルシアの化粧に着替え。今日は特別なお客様が来るとあって、ナルシアはそのことに胸を躍らせ、上機嫌でいた。


しかし、ナルシアの両親は、顔さえ見せない。公爵家としての責任は膨大で、両親は一日中仕事に追われている。父である公爵は、広大な領地の管理に手を取られ、朝から晩まで仕事に没頭していた。彼の仕事は、領地内の農作物や家畜の状況を監視するために、定期的に各地を視察し、必要な指示を与えることだ。加えて、領民からの訴えや不満を解決するために、家族ぐるみで調整を行い、領内の秩序を保たなければならない。


母である公爵夫人は、領地の女性たちの教育や社会的な役割の調整に関わっていた。貴族の家柄を維持するためには、婦人たちのしつけや礼儀が不可欠であり、それに関する会議や集まりが頻繁に開かれる。また、家族や親戚の間での結びつきを強化するために、常に次に起こる社会的イベントに向けて準備を進めなければならなかった。


そのため、ナルシアの両親が家にいることはほとんどなく、彼女が最後に両親と顔を合わせたのは、前回アステリウスが訪れた際にほんの一瞬だった。食事も、ナルシアは一人で部屋に運ばれた料理を食べることがほとんどだった。


「ジェーン、そろそろいらっしゃるかしら!」

「ふふ…お嬢様、もう何回も同じことをおっしゃってますよ」


ジェーンは、ナルシアのいつもの冷静で優雅な微笑みとは違い、年相応の子供らしい笑顔で無邪気な姿が、まるで妹のように思えて、つい彼女に微笑んでしまう。


「だってね、お家にお友達を招待するのって初めてだもの」

「大丈夫ですよ、もうすぐいらっしゃるはずです」


ジェーンの言葉に、ナルシアは少し安心したように頷いた。


ジェーンはナルシアの部屋からそっと窓の外を覗き込む。


「お見えになったみたいですよ。」


その言葉に反応したナルシアは、驚くほどの速さで窓辺に駆け寄り、外をじっと見つめた。窓の向こうには、予想していた通り、豪華さには欠ける一台の馬車が家の前に停まっていた。


その馬車は、公爵家のものと比較すれば、かなり質素だった。車体の色はかつての輝きを失い、ところどころペンキが剥げていた。装飾もシンプルで、華やかな金や銀は一切見当たらない。さらに、馬の体も少し痩せているように見え、どこか疲れた印象を与えていた。


ナルシアはその光景に少し胸が痛んだが、すぐに気を取り直し、玄関へと足早に向かって行った。家の格式を意識し、どんなに貧しい家から来た客でも、精一杯の礼を尽くすつもりだった。


玄関に着くと、そこにはセレスティアがすでに立っていた。セレスティアは深く息を呑み、緊張しながらも顔を引きつらせて言った。「ほ、本日は…お招き…いただきありがとうございます。」


彼女の声は震えており、足元もわずかにふらついている。カーテシーの動きもぎこちなく、まるでこの上ない恥ずかしさを感じているようだった。その姿を見て、周りにいた公爵家のメイドの何人かが、つい我慢できずに「ぷっ」と吹き出してしまった。笑い声を漏らしたのは、中級貴族のメイドたちだろう。彼女たちにとっては、セレスティアのカーテシーの拙さがあまりにも不格好に見えたのだ。


セレスティアは顔を真っ赤にして、震えながら顔を上げることができずにいた。その姿に、ナルシアは何とも言えない気持ちになり、ついセレスティアの手を取って引き寄せるようにして、「さ、行きましょう!」と急いで応接室に向かった。


セレスティアはそのまま、恥ずかしさと緊張で頬を紅潮させながら、足早に歩きながら、ナルシアの後ろについて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ