#悪役令嬢に転生してみた
目を覚ました瞬間、ふかふかの広いベッドに身を包まれていることに気づいた。周囲には暖かな光が静かに満ち、まるで優しく包み込むように輝いている。目の前に広がるのは豪華な装飾が施された天井や壁。
まさか…本当に…?
少女は勢いよくベッドから起き上がると、先ほど泣きそうになっていたメイドが「お嬢様!お加減はいかがですか?」と、自分が倒れそうなほど青ざめた顔をしているのが見えた。しかし、メイドには目もくれず、少女は部屋にある大きな化粧台に向かった。
深いダークブラウンの髪、ぱっちりとした二重の紫の瞳。まだ幼さを帯びているが、誰がどう見ても美少女が鏡に映っている。その顔を見た少女は、ガクンと両膝を床につけた。
「ナ、ナルシア・ヴァレンティーナ・エヴァンスだああああ」
ナルシアは、己の顔を手でぺたぺたと確認するように触る。紛れもなくナルシアになっている。ナルシアってことは、確実に処刑される運命だ。どのハッピーエンドでもバッドエンドでも、ナルシアは処刑されてしまう。その運命に絶望し、顔の血の気がサッと引く。
「ナルシアお嬢様…その…あの…お、お水を用意いたしました!」
水の入ったコップを差し出す手すら震えているメイド。それも当然だ。ナルシアの記憶を辿ると、ドレスの色が気に食わないからと熱い紅茶の入ったカップを投げつけたり、ナルシアの質問に答えられず鞭を打たれたり。ナルシアは本当に人の心があるのか疑いたくなる。
「ありがとう、そこに置いておいてちょうだい」
ナルシアはカフェテーブルを指差すと、静かにメイドはグラスを置き、存在感を消すように壁の前に立った。
横にいられると鬱陶しいのよ!!と怒鳴りつけて平手打ちをされてから、メイドはナルシアの視界の邪魔にならないようにしていた。
「あの、あなた…えーと…」
メイドの名前はなんだったかな、と記憶を辿るも、そもそもナルシアはメイドに興味なんかなく、名前すら覚えていなかった。
メイドは、少し様子の違うナルシアに首をひねるが、すぐに状況を理解したのか、「ジェーンと申します…」と、心細げに答えた。
「そう、ジェーン。私って今いくつかしら?」
ジェーンは意味がわからずさらに首をひねり、「7歳でございます。」と不思議そうに答えた。
7歳。確か公式設定で7歳の誕生日に第一王子と婚約したって書いてあったので、すでに婚約はしているということか。そうなると、司祭のお告げは免れられない。
「それならいっそのこと、アステリウスと仲良くなれば…」
「国の災いとなる」とお告げが出てもアステリウスは正義感が強いから、仲良くすればナルシアに害意はないと助けてくれないだろうか。
独り言を聞いたジェーンが、「そのアステリウス王太子殿下なのですが…」と、不安そうにナルシアの顔色を伺いながら言葉を紡いだ。
「ナルシアお嬢様が倒れたことを聞き、明日いらっしゃるそうです…」
ナルシアは「へ…?」と、ナルシアらしからぬ間抜けな声を出した。