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1、記憶消し屋
とある女性が、古びたドアを叩いた。人気のない通り。年季の入った建物。そこに、彼女の探す人がいる。
ドアの開く音とともに顔を出したのは、容姿の整った男であった。紫色の髪がさらりと揺れる。金の細められた瞳が、訝しげに彼女の方を見る。彼女は息を呑んだが、すぐにお辞儀をした。
「はじめまして。私はグロリアと申します。貴方が記憶消し屋様ですか?」
「そうだが」
その男の低い声が心地良く響く。
ああ。良かった。グロリアは再び頭を下げた。
「どうか、私の記憶を消してください」