エピソード1:ヴェロニクスへようこそ / 4
柚木は祖母の小さな背に隠れるようにしながら、電気屋の店内を歩いていた。
ヴェロニクス・デビューした翌日。柚木は、自営業の牛乳屋に出勤する前の祖母にお願いをした。実は、ネットゲームを始めたんだけど、コントローラーとかが欲しくて……。そう言った柚木は、雪国の大地に埋まった人間のようにヒヤヒヤしていた。買ってもらうと決めていたが、牛乳屋で1日働いてから言いな!とか言われたらどうしよう、と。
しかし、祖母は有希の寝癖が取れていない髪をわしゃわしゃと撫でた。ばあばに任せとき!と、頼もしく鼻息を荒くして。──そして、現在に至る。牛乳屋の終業後、祖母は柚木の盾になりつつ、一緒に電気屋まで来てくれた。しかし、機械知識がまるで無い柚木は、どれが対応している機器なのか、全く分からない。
すると、祖母が懐から、温まったスマホを取り出した。そうなのだ。柚木の祖母は、老人会の関係でめちゃくちゃ機械に強いのだ。
「えぇと、ゲームの名前、なんじゃったっけ」
「ヴェロニクス……」
「あーあー、それじゃったら、そのコントローラーやんな。柚木のパソコンとの相互性もあるなぁ。あと、ヘッドセットと……変換器?」
「あ、いいから!変換器はいいから!」
コントローラーとヘッドセットだけでも申し訳なく思うのに、変換器までは……。しかし、柚木の祖母はサクサク、シャッキリ、カートとカゴを持ってきて、カゴの中にコントローラー、ヘッドセット、そして、変換器を放り込んだ。嬉しい、しかし、申し訳ない。が、やっぱり嬉しい。そんな柚木の感情が顔に出ていたのか、祖母に笑われる。
そして、祖母は柚木に言った。「遠慮しんなし」。文句1つ言わずに、安くない買い物をしてくれる祖母に、柚木は頭が上がらなかった。──そして、祖母との買い物から帰り、夕食の支度をする祖母にあれこれ聞きながら、柚木はノートパソコンにコントローラーやヘッドセット、そして、変換器の本体を取り付けた。
実際に操作する、複数のボタンがあるスティックタイプの変換器は、ボタンを押したり何度か振ったり、操作に慣れるまで大変そうだった。しかし、コツならhitoたちが教えてくれるだろう。夕食後、柚木は「きのきょ」に入室して、誰もいないことにガッカリしながら、1人、ヴェロニクスへログインしてみることにした。早く慣れたい。
そして、夜遅いと言える時間になり、柚木は「きのきょ」に入り直した。そこには、昨日会えなかった「巳茶」というチャットルームの先輩がいた。挨拶をしてみるが、反応は無し。離席中なのだろう、と思い、柚木は他のメンバーが集まるまで、無言でいることにした。hitoたちがチャットルームにやってきたのは、1時間後。
今度行く、大型モンスター討伐の下見に、ヴェロニクスに行っていたのだという。そのタイミングで、巳茶が発言した。「おはよう」。どうやら、無視でも離席でもなく、寝落ちだったらしい。何だか不思議な感じのする巳茶を交え、チャットをする先輩方に、柚木は「報告」をした。コントローラもヘッドセットも変換器も買ってもらいました!と。
ここにパルりんがいたら、どんなことを言われるか。しかし、今、チャットルームにパルりんはいなかった。当たり前のように心配する自分がいて、不思議な気持ちだった。




