エピソード1:ヴェロニクスへようこそ / 1
その世界は美しかった。液晶の向こうの世界とは思えない、プレイヤーを惹き込む力があった。
世界の名・ヴェロニクスはゲーム内の言語で「運命」。ヴェロニクスと柚木の出会いもまた「運命」なのだろうか。しかし、チャットルームも初めてならネトゲも初めてな柚木には、ガイドが必要だった。だが、「きのきょ」でチャットをしながらヴェロニクスをプレイすることは出来ないらしい。色々と、システム的に。
なので、hitoの提案で、ヴェロニクスのプレイ中はゲームのボイスチャット機能を使うことになった。柚木の部屋は2階、祖母の部屋は1階、ボイスチャットで起こしてしまうことは無いと思うが、一応、最小音量に設定した。パソコン音痴な柚木も動画くらいは見るので、音量設定などは1人で出来る。
操作方法は事前に「きのきょ」で聞いておいた。といっても、hitoとkanapoとボイスチャットで繋がってしまえば、何の心配もないということで、そこまでの操作をチャットルームで頭に叩き込んでおいただけなのだが。そして、ログインして暫くその場に立っていると、柚木のシステムアイコンに「2」という字が表示された。
クリックしてみると、ボイスチャット申請が2件。「白漆」と「ぽぽこ」からだった。事前に聞いていた、hitoとkanapoのキャラクター名だった。申請を許可する。
白漆「聞こえるー?深雪君」
深雪「はい、聞こえます。聞こえますか?」
ぽぽこ「聞こえまーす」
白漆「右に同じー」
柚木はキャラクター名を「深雪」にしておいた。これから知り合う「きのきょ」のメンバーが分かりやすいように。hitoとkanapo(混乱しないように、きのきょのハンドルネームで呼ぶことにする)たちの指示に従い、柚木はその場でhitoとkanapoの到着を待った。今の柚木では、じゃあ、そこから東に100歩ね、と言われても迷子になる。
白漆「到着!俺とkanapoは問題なく見える?」
深雪「はい、大丈夫です」
無事、hitoたちと合流した柚木は、操作に手間取りながら、hitoとkanapoのキャラクターに付いて歩く。ゆっくりでいいからねーと言ってくれるhitoの声はまだ若く、雑談をしてくれるkanapoの声もまた若かった。訳ありだと知っているから、年齢を含め、色々聞くことを躊躇ってしまう。もし、柚木がプライベートのことを聞かれたら。
とてもじゃないけど、情けなくて話せない。話せる・話せない、は人それぞれだと思う。抱えているものも、それぞれ違うわけだから。でも、柚木には出来ないことだった。今後、それが変わるのか。今の柚木には分からなかった。今はただ、この新しい「居場所」に集中していたかった。浸っていたかった。




