エピソード9:俺の話も聞いてはくれないか、は大抵、前者より重い / 2
言葉の打った文章が柚木のパソコンの画面に表示された。それはまだ幼いと言える年齢の柚木には、重たく感じられる愛の話だった。
戸羽乃<俺とその女性は離婚した。彼女の幸せを願って。しかし、1年後。彼女は俺の元へ戻ってきた。身体に障害を負った状態で>
深雪<……何が、あったんですか?>
戸羽乃<再婚相手が酔っ払った状態で運転した車に、轢かれたんだ。その男は現在も刑務所の中、行き場を無くした彼女は、俺を頼ることしか出来なかったんだ>
痛み、悲しみ、後悔。色々な感情が言葉の中を巡った。深雪には少し重たい話だったか、と思ったが、そういう現実もあることを深雪──柚木に伝えたい、という思いもあった。そして、もう1つ、言葉は柚木に伝えたいことがあった。言葉は決して不幸ではない、ということ。寝言で彼女が言葉を呼ぶ度、愛おしくなる。
戸羽乃<現在、俺はカフェのオーナーをしながら、彼女の介護をしている。日中はヘルパーさんを呼んで、彼女が寝付いたこの時間はきのきょやヴェノニクスにいる>
深雪<……辛く、ないですか?>
戸羽乃<ああ、辛くはないよ。彼女のことを、今でも愛しているから。それで、その彼女のことでみんなに相談があってね>
言葉はデスクの中から、一枚の紙を取り出した。それは──婚姻届だった。言葉のサインは、もうしてある。あとは彼女のサインと保証人のサインが必要だ。しかし、言葉はその婚姻届の存在を彼女に知らせていない。知らせるべきか、もう1度プロポーズしていいものか。言葉はその相談を、きのきょのメンバーにしたかったのだ。
戸羽乃<俺、彼女と再婚を考えているんだ。でも、まだ迷ってる。俺に彼女を幸せにするだけの力が、あるのか。分からなくて。それに、保証人の当てもない>
巳茶<……愛の形も、種類も、強さも、正解のないものですよ>
hito<何なら、俺とkanapoが保証人になってあげよっか?>
……巳茶と、hitoの言葉に救われた。言葉の後ろで、彼女が起き上がる気配がした。言葉が振り向くと、彼女は笑ってくれる。そして、彼女は言葉の手の紙を見ると、懐かしいね、と言った。言葉の身体は震える。言っていいものか。あの時、離婚しなければ彼女は障害を負わなくて済んだ。そのことで、言葉は何度自分を責めただろう。
しかし、意を決した。言葉は彼女の麻痺していない方の手に、婚姻届を渡す。彼女はその婚姻届を眺めて、静かに笑った。利き手が麻痺していなくて良かった、と。




