エピソード9:俺の話も聞いてはくれないか、は大抵、前者より重い / 1
イベントの翌日、その晩、かほりがいつものように、きのきょへやって来た。昨日は酔い潰れちゃってごめんねー!なんて言いながら。今日はフルメンバー、またヴェロニクスでイベントか?と期待していたのは、昨日、参加出来なかったパルりん──真珠だ。しかし、今日は戸羽乃が、みんなに相談がある、と言い出した。
昨日、戸羽乃から、きのきょオリジナルの指輪を貰ったかほりは、何でも相談に乗るわ!と意気込んでいる。真珠も、何かとお世話になっている戸羽乃の相談じゃ、乗らないわけにはいかなかった。昨日に続き、今日も深雪はきのきょメンバーの「訳あり」の「訳」を知ることになりそうだ。
戸羽乃<俺の事情を知らない、深雪君に事情を説明するところから始めよう>
深雪<俺、戸羽乃さんのこと、あんまり知らないですよね>
hito<戸羽乃は普段、あんまり自分のこと話さないからねー>
そんなhitoの言葉で、戸羽乃は思った。確かに、深雪以外のメンバーにも自分のことを話す機会は少なかった。きのきょには、訳を話さなければならないというルールもなく、訳を話しちゃいけないというルールもない。その代わり、他のメンバーの訳について突っ込んで聞くことは、推奨されていない。暗黙のルールとでも言おうか。
ヴェノニクスではコトコトシチュー。きのきょでは戸羽乃。リアルの名前を、里井 言葉という彼の事情は深度が深い。
戸羽乃<俺はその昔、とある女性と結婚していたんだ。しかし、ある日、離婚を切り出された。あなたより素敵な人を見つけたの、と>
画面の向こうの柚木は思っていた。ヘヴィな訳を僕みたいな子供に話して大丈夫なのだろうか。しかし、今さら、聞きたくありません!とは言えない。聞きたくないわけでもない。しかし、戸羽乃のことを深く知らない柚木が聞いていいものなのか。思考はループする。画面の向こうの戸羽乃──言葉は、自分の背後のベッドで眠る女性を見た。
穏やかな寝息が聴こえてくる。今日も彼女が生きている、それが言葉の心の平穏を保っていた。言葉は話を続ける。




