エピソード5:明け方、君と出会えて良かった、と言う / 2
加奈子宅がそんな感じの朝を迎えているその時、真珠は会社を休んだ父親も同伴で、金澤医師の診察を受けていた。昨日、母親に暴力的な言動をした、と。今すぐ入院治療が必要だから入院させてほしい、というのが、真珠の父親の言い分だった。先日、真珠の両親が毒親だと知った金澤は、はいはい、毒親のお得意のやつね、くらいにしか思わない。
子供が何の理由もなく親に暴力的な言動をするか、金澤は知らない。精神科医だが、知らない。分かっているのは、本当に苦しんでいるのは子供の方だ、ということ。病棟の空きを確認するまでもなく、金澤は真珠の父親の希望する、真珠の入院を断った。しかし、真珠宅の毒父がそれで納得してくれるはずがない。だが、金澤には手があった。
「残念ながら、今、入院はお断りしているんです。次回の定期入院の時まで待てませんか?」
「し、しかし……うむ。待てば、確実に入院させられるんですよね?……それならば、待ちましょう」
「ご理解、ありがとうございます。あぁ……あと、真珠さんが暴力的になる時、真珠さんを怒らせるようなこと、していませんか?」
金澤は一瞬、真珠の両親を睨んだ。自分の患者をいじめられるのは、趣味じゃない。心当たりがあるのか、ないのか、ハッキリさせないまま、真珠の両親は真珠より先に診察室を出た。尾を巻いて逃げるように。すると、真珠が、金澤に見せたことのない表情を見せた。それは、僅かだが、信頼感と呼べるものだった。金澤もドヤ顔である。
「なかなかやるじゃん、金澤先生」
「君の家のご両親が毒親だって、この前、知ってね。まぁ、入院の先延ばししか出来なくて、ごめんね?」
「いーよ、あたしもちょっとやり過ぎたし」
「大人の答えだ」
そして、真珠は憂鬱そうな、気怠そうな顔をして、仕方ないから帰るよ、と言った。帰ったら、きのきょを覗こう。もしかしたら、家事の合間にkanapoが来ているかもしれないし。今日は金澤が「薬」を変えたということで、少し薬局で待たされた。金澤のブレンドは「ラムネ」増量と「粒のチョコレート」と「ウエハース」だった。
ウエハースはねぇだろwwwと、真珠は心の中で爆笑した。薬局もグルの、壮大な嘘処方。「薬」の大幅増薬に、真珠の両親は満足したようだった。