エピソード4:始まりはヴェロニクス / 2
hitoの話は続く。
白漆<それを切っ掛けに、俺とkanapoは話すようになった。最初の頃はソロプレイのコツの話ばっかりだったけど>
コトコトシチュー<お前のソロの腕はkanaさん仕込みだもんな>
──コトコトシチュー。それは「きのきょ」の「戸羽乃」のキャラクター名だった。戸羽乃の本名から2文字取っているそうなのだが、誰も彼の本名を当てられたことはない。hitoとkanapoを除き。2人は戸羽乃とリアルでも繋がりがあった。戸羽乃はhitoと付き合いが長く、そして、お互いの「訳」に理解があった。
画面の前で、hitoは茶を啜る。高校生の娘からはジジ臭いと言われるが、hitoは何気にこの一杯が好きだった。そして、話を続ける。その間に、kanapoは装備の切り替えをしていた。アイテム・レベリング用の装備から回復魔法特化型の装備に。kanapoは用途に合わせて装備を変える。攻撃特化型の装備もある。
白漆<でね、kanapoも俺に付き合ってるうちに、チャットメインのプレイヤーになってさ。2人とも、ログインしても街から動かないんだよね>
ぽぽこ<あの頃は、ヴェノニクスがチャットルームみたいになってたよね>
白漆<そうそう。だったらもうチャットルーム作っちゃえよ!っていう話になって、きのきょを作ったんだよね>
なんと。深雪は心の中でリアクションした。サーバーが云々は分からないが、チャットルームを立ち上げるだけの知識とスキルがあるとは、hitoは何者なのだろう。そして、ネトゲで出会って、チャットルームを立ち上げて、そこからkanapoと結婚するに至った経緯を是非とも知りたい。とても運命的な出会いで、少し憧れてしまう。
ずず、と、hitoが茶を啜る。そして、話の肝心な部分を話し出した。きのきょを作った、そのあと。
白漆<俺とkanapoは、まぁ、抱えている訳に似たところがあってさ。自然と、支え合いたいって思うようになったんだよね。あとはもう、とんとん。リアルで繋がって、お互いの家族と顔合わせして、相性とか色々考えた上で、再婚。再婚後は戸羽乃も誘って、きのきょを一般向けにオープンしたんだ>
ぽぽこ<うち、お互いにバツイチ子持ちなの。それが、私たち夫婦の「訳」だよ>
なるほど。深雪はまた、心の中でリアクションした。と、その時。童話の中のお姫様のような美少女キャラクターが現れた。美しさでは真珠のキャラに匹敵する。キャラクターネームを見てみると、ぽぽこ。柚木は素直に驚いた。そういえば、ぽぽこのキャラは常時フードを被っていて、顔はよく見えていなかった。
kanapoはレアモンスター戦の盾を引き受け、真っ先に犠牲になった、謎の多い巳茶を1番に蘇生した。美しい詠唱が鼓膜を揺らす。