エピソード4:始まりはヴェロニクス / 1
「きのきょ」のメンバーは、離脱したkanapo、そして、深雪を除いて、戦闘不能になった。それでも、hitoはまだあのモンスターに未練があるらしく、勝ってた場合、戦利品は何だったの?とメンバーに尋ねた。しかし、それを知っていそうな真珠はログアウトしてしまっている。敗戦したと言うこともあり、ボイスチャットは静まり返っている。
無言に耐えかねたのか、hitoが、思い出話でもしようか、と口を開いた。他のメンバーは聞き役に徹するつもりである。敗戦したのはともかく、一撃が重く、致命傷になる戦闘を繰り広げた疲労もある。kanapoが戻るまで、hitoは喋り続けるだろう。hitoは重たい沈黙が苦手だった。そういう性格なのである。
白漆<俺とkanaapoの出会いから話そうか>
深雪<あのー……ずっと気になってたんですけど、hitoさんとkanapoさんって、どういう……?>
白漆<あぁ、俺とkanapoはリアル夫婦だよ。ほら、話の続き、させてよ>
現実で、kanapo……相葉 加奈子は笑っていた。夫である、hito……相葉 一は話し出すと長い。まぁ、その方が加奈子は有り難いのだが。何せ、戦闘不能者4人の蘇生にはそれなりに時間が掛かる。パッと戦闘不能になって、パッと蘇生出来たら面白くない。加奈子はそう思うのだが。中には、面倒だというプレイヤーもいる。人それぞれだ。
白漆<俺とkanapoが出会ったのは、雪の街・ベントハルツァーの近くのフィールドだった。その日、俺は慣れないソロプレイでミスをして、戦闘不能になっていた。たまたま通りかかって、蘇生してくれたのが、kanapoだった。kanapoは珍しい、ソロのヒーラーだった。……懐かしいな>
海百合<hitoって、パーティーでのレベリングが中心だったの?>
白漆<いや、チャット中心のプレイヤーだった。だから、未だにレベルが低いんだよ>
現実世界で加奈子が笑ったのが、ボイスチャットで聴こえた。加奈子が──kanapoが、レベルが上がらないのは、コロコロ変わるマイブームにのめりこんでいるからしょう、と、一の──hitoの痛いところを突く。海百合の名前でヴェロニクスにログインしているかほりが、それはあるわね、と同意する。
ちなみに、今のhitoのマイブームは「ペット育成」。これまた、レベルが上がらないものだった。しかし、hitoはヴェロニクスを誰よりも楽しんでいるプレイヤーだろう。