エピソード3:うるさいなぁ!! / 2
真珠は母親の胸ぐらを掴んだ。母親が細い悲鳴を上げた。真珠は笑う。──このまま階段から落としてやろうか。
「真珠!お母さんがいけなかったわ、ごめんなさい!真珠はお友達を大切にしているのよね!!」
命の危険を感じて、母親は低姿勢になった。しかし、この件は間違いなく父親の耳に入るだろう。それなら、おまけを追加してやろうか。真珠は母親の身体を壁に押し付け、耳元で囁いた。──暇なの?ここ最近、多いじゃん。人の部屋の前で突っ立ってさ。気持ち悪りぃんだよ。つかさ、うるせぇんだよ。
ボイスチャットで繋がっている面々の顔色が悪くなった瞬間だった。パルりん、親御さんにログイン停止にさせられたら、どうしたらいいかなぁ。kanapoが思案する。戸羽乃が、スマホ版のソフトでボイスチャットしたら?と提案する。そんなことも出来るんですね、と、深雪が驚く。その間にも、狩りは続いている。
結局、真珠は「気分が悪くなった」と、ログアウトしてしまった。親にあれだけの脅しを掛けて、気分が良い!と言い出したら、むしろ心配になるところだ。
と、そんな時に、かほりが大声で叫んだ。今度は何事!?と、kanapoが悲鳴を上げた。
海百合<ぽ、ぽぽぽ、ポップ!レアポップ!総員戦闘体勢!!>
白漆<うっそー!!俺ら今、最弱武器と最弱アイテムしかないよ!?モンスのレベルいくつ!?>
海百合<30レベ!ギリ、イケるかイケないかってところ!!>
柚木には分からないやり取りが繰り広げられる。でも、1つだけ分かる。これはきっと大イベントなのだ、と。しかし、hitoたちに、深雪は下がっているように言われた。確かに、低レベルの初心者じゃ足を引っ張りそうな話だ。そのモンスターは、明らかに強そうな姿をしていた。モンスター名の色が普通のモンスターと違う時点で、特別だ。
「きのきょ」のメンバーが、モンスターに飛び掛かる。巳茶がモンスターの注意を引き、残りのメンバーはひたすら叩く。が、モンスターのHPは一向に減らない。チーム「きのきょ」のメンバーはあらゆる状態異常を浴びて、壊滅寸前。そのタイミングで、kanapoが「離脱します!」と戦場を離脱した。
kanapoが戦線を離脱していれば、この後、kanapoの本職・ヒーラーの魔法を使って、戦闘不能のパーティーメンバーを立て直してくれるだろう。勿論、もうあのレアと呼ばれるモンスターには挑まないだろうが。柚木は目の前の惨状を慌てながら見ていることしかなかった。……真珠のことだけ、気掛かりだった。