エピソード3:うるさいなぁ!! / 1
低レベル帯の草原・トゥライ。最悪、キャラクター自体のレベルも低い深雪が迷子になっても、辛うじて戦闘不能にならないようなモンスターしかいないエリアだ。7人の大所帯から逸れるようなドジをしたら、笑ってしまうが。しかし、またそういうことを言うとリーダーに──hitoにあれこれ言われるだろう。黙っておこう。
今日のアイテム・レベリングは最後まで参加したい、と思っていた。真珠は基本的にはソロプレイヤーで、回復アイテムはいくつあっても困らない。特に不足しがちなのは、回復薬<ウィン>と状態異常防止薬<アネテネ>だ。アネテネに関しては、常時上限マックスまで持っていても足りないくらいだ。
ウィンは鍛えれば鍛えるほど回復量が増し、アネテネは鍛えれば鍛えるほど、効果時間が延びる。今日は30個を目指したい。そして、hitoを筆頭にレベリングを開始すると同時に、ボイスチャットも賑やかになった。真珠の部屋の外には、まだ父親か母親が立っている。その状態で会話を開始するのは、実に面倒なのだが……毒親に合わせるのは嫌だ。
ゆみポ<ねぇねぇ、リーダー。ここ、この前のアプデでモンス追加になってなかったっけ?>
白漆<え、マジで!?どこからそんなお宝情報を持ってくるのさ、パルりん!>
ゆみポ<なんか、レアポップらしいよ。個人でやってるホムペの情報だけど、掲示板を見る限り、ガチ>
盛り上がってきた、その時。ドアの向こうから母親の声がした。
「真珠?誰と話しているの?」
「ネトゲの仲間」
真珠は溜め息を吐く。面倒なやり取りが始まってしまった。ドアの向こうの母親は、今のところ、心配モードだ。縛りモードに入られると、厄介だ。現状、パソコン類に手を出したらリスカする、と脅しているから大人しいものの。本当にリスカするつもりはないが、本当にパソコン類を取り上げられたら、してしまうかもしれない。
「相手は男の人なの?」
「男女混合。ていうか、この会話も全部、筒抜けだから」
そう、筒抜け。hitoにもkanapoにも戸羽乃にもかほりにも巳茶にも……深雪にも。hitoに「キレちゃ駄目だよー」と言われるが、何だか、イライラしてきた。真珠は思い切って、部屋のドアを開けた。母親が驚いた顔をしている。真珠は母親を睨み上げる。うっせぇんだよ、と。母親が怯えた顔をした。ガチで睨んだから。殺意もおまけで。
hitoが「パルりん、ゲームしようよ、ゲーム!」と止めに入ってくれるが、1度火のついた怒りは、そう簡単に鎮まりはしない。真珠の母親は泣きそうだ。