プロローグ:昨日の今日は今日の昨日へようこそ / 1
深夜、少年は自室でノートパソコンを開いていた。
少年の名前は飯田 柚木、高校生1年生だが高校には行っていない。いわゆる不登校というやつで、留年は確定している。家族は……実質、年老いた祖母が1人だけ。祖母は働いているというのに、ただただ広義の引きこもりを続ける自分に嫌気が差すこともある。しかし、現在の生活を変えられる気がしない。心は、罪悪感と孤独感でいっぱいなのに。
「……僕、一生、こうなのかな」
柚木がパソコンで眺めているのは<高校生><孤独>というキーワードで引っ掛かったサイト。怪しげなサイトばかりだが、縋りたくなる。勿論、あからさまに違法薬物を売っているようなサイトはスルーするが、気になったサイトは片っ端から見ていく。その、最早、作業となったサイトへのアクセスの最中、手が、止まる。
<訳あり学生・訳あり社会人のチャットルーム:昨日の今日は今日の昨日>
ここだ、と思った。そこまで怪しげでもなく、シンプルなデザインのホームページには参加申請ボタンがあった。縋りたい、強くそう思った。もし、参加申請が通って、危ないところだったら退会すればいいだけの話だ。チャットルームの参加申請ボタンを押すと「訳」を入力する欄が出てきた。「訳」で、参加の可否を審査されるのだろう。
<訳:祖母しか親族がいないに等しく、いじめが原因で小学生の頃から登校・不登校の繰り返し。現在、高校1年生。留年確定の引きこもり>
5分後。ウェブページがリロードを要求してきた。ドキ、ドキ。リロードする手が震える。ページのリロード後、参加申請だったボタンは「入室」に変わっていた。
「……大丈夫。大丈夫大丈夫大丈夫。ここには低レベルないじめなんかない、ないぞ、そうだ」
柚木は繰り返す。ここには低レベルないじめなんかない、と。少なくとも、物理的いじめは絶対に起こらないのだから、身の安全は保証されている。小学生の柚木を不登校に追い込んだ「いじめ」。「低レベル」だとでも言わないと自分を保てない過去。しかし、その「低レベルないじめ」が、今の柚木を作り出した。気弱で、何事にも怯える少年を。