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ロンドン  作者: 東堂 アカリ
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まだ若かったわたくしには納得のいかない思いが強かったのですが、ヘンリー様との関係はそれぞれの家の意向もあったのでしょう。必ずしも彼女たちが好きでやっていたのではなかったのだろうと、今ならよく分かります。そして、そのことはキャサリン様も受け入れていらっしゃったのかもしれません。

 少しずつ仕事に慣れてきたと感じる頃、わたくしはキャサリン様とお別れすることとなりました。それは甚だ不本意なことではございましたけれども、仕方のないことでもありました。

ヘンリー様が、周りの反対を押し切ってキャサリン様と離縁なさったのです。

いつも静かに微笑んでいるキャサリン様でしたが、その時ばかりは泣き叫び、お傍にいるのが辛いほどでした。キャサリン様がどんなに泣き叫んでも、ヘンリー様が離縁の意思を変えることはありませんでした。子供を産むこと、特に直系の男子にこだわるヘンリー様にとって、自分より9歳年上であるキャサリン様にこれ以上子供を望むのは不可能だと思われたようでした。キャサリン様にとって受け入れられなかったのは、ヘンリー様との離縁だけではございません。唯一授かったお子様であるメアリー様を手放すことになるからでございます。それはひとりの母親として、どれほどお辛いことでしょう。また、後ろ盾のないメアリー様が、これからお辛い思いをするのではないかと心配でもあったでしょう。キャサリン様が離縁を受け入れることはありませんでした。

 しかし、ヘンリー様は強引にキャサリン様を宮殿から追い出しました。キャサリン様の御出身であるスペイン王家に持参金の返還をしたくなかったのでしょう、そのからもいろいろと手をまわしたようでございます。わたくしは最後までキャサリン様について行きたかった。でも、それはわたくしの家族にも、ヘンリー様にも認められることはありませんでした。わたくしは、キャサリン様とお別れを言うことも出来ないまま、慌ただしく別の主人に仕えることになりました。

 ヘンリー様は、キャサリン様と離縁し新しい妃を迎えると発表しました。キャサリン様の侍女として共にお仕えしていた、アン様でございます。もともと美しい方でしたが、フランスから帰ってきてから、洗練されたセンスと楽しい会話でヘンリー様を夢中にさせたようでした。キャサリン様は穏やかな方でしたから、ヘンリー様はアン様と過ごす時間がとても刺激的に感じられたのでしょう。それは、傍で見ていたわたくしにも感じました。フランス仕込みの明るく軽やかなドレスは誰もが目を見張り、こちらの宮中においてはとても華やかに映りました。時には冗談を言ったりして誰もが夢中になる会話は、何もかもを手にして飽き飽きしているヘンリー様を捕らえて離しませんでした。しかし、新しい主人との生活はわたくしの人生で最も辛く、苦しい日々でございました。

 キャサリン様にお仕えしていた時から、アン様の主への態度は酷いものでした。わたくしがキャサリン様にお仕えした時、すでにアン様はヘンリー様と長く愛人関係だったようで、キャサリン様に対してきつい言葉を吐くこともあったようなのです。それはキャサリン様が離縁される頃には益々酷くなっていました。アン様がそのような態度になられたのは、確かにヘンリー様の一番のお気に入りということもあったのでしょうが、いつまでたっても結婚できないという苛立ちもあるようでした。一緒にいて感じたのは、アン様は常に権力というものを欲していて、それは家や親の考えなどを超えて、本人の強い思いであるように感じました。彼女は心のうちに大きな赤い炎が燃え盛っていて、それは静かで穏やかな水のような存在であるキャサリン様をも燃やし尽くしてしまいそうでした。気性も激しく、明るく楽しいときは良いのですが、一旦機嫌が悪くなると誰もなだめることが出来ませんでした。

 ヘンリー様とアン様は、キャサリン様を宮中から追い出したあと豪華な結婚式を挙げました。お二人の衣装も、飾られた花も、出された料理も、これ以上のものはないだろうと言うくらい贅を尽くしたものです。アン様は、その一つ一つをご自分で確認なさり、素晴らしいセンスを余すことなく発揮なさいました。


  ・・・すっかり話過ぎてしまったようです。わたくしは、もう、行かなくては。

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