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風と雷とねずみ小僧  作者: のんぴ
第五章 福島へ
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第五章④

 福島西ICで高速を降りたころには、みぞれは雨に戻り、それもやがて止んだ。


 料金所を出て、左折した。

 看板によると、右に曲がれば福島市内で、左は土湯峠へと向う道だ。


 聖澤の屋敷は峠の手前にある。峠をこえると、そのむこうには猪苗代湖と会津平野がある。


 道の両脇は暗い。どうやら果樹園が続いているようだ。数少ない街灯に照らされて、熟れた柿が、上の方に一個だけ残っている木を見つけた。


 あれはなんだろうとマオリが尋ねると、『お礼』として最後の一個を残すのが風習なのだと、古橋さんが教えてくれた。


 まだ、だいぶ離れていると思うのだが、お屋敷の明かりがもう見えてきた。


「どちらかというと、お城って感じがしなくもない」

 古橋さんはあたりを伺う。


 入り口は確かに城門といって何の差支えのないような巨大なもので、鈴さんの「兵隊とか、個人でもってたりしないよね」という言葉があながち冗談でもないように思われた。

 

  直行くんは窓の外を見渡し、ついでのようにマオリのほうをちらりと見た。彼はなにも言わないけれど、マオリが一緒に来た理由はもちろん知っているのだろう。


 自分がこれから相対するものの大きさを目の当たりにしてマオリの不安な気持ちは膨らんでいった。


「さてと、行ってみようか」

 古橋さんの声は、変わらずのんびりしていた。


 門をくぐってからが威圧的なほどに長い。しばらく走ると赤い光が行く手に見えた。


「お、警備員だ」


 それは駐車場へと案内してくれる警備員さんの長細い指示灯だった。何人かの警備員さんに誘導されて、たくさんの車が並ぶ大きな駐車場にパオを停めた。


 外に出ると、肌にほんの少し湿り気を感じる。気温は多分一ケタまで下がっていると思う。横浜ならば真冬の気温だ。


 今日と明日はこのお屋敷に泊めて貰うことになっているので、各々が荷物を持って歩く。


「この車っていくらするの?」

  停まっているゴージャスな外車を指差して、直行くんがお父さんに尋ねた。


「これ、一個前のベンツだろ。確かええと、俺の車が八台買えるくらいだな」


「これは?」

「パオ六台分」


「これは?」

「十二台分」


 直行くんは明らかに古橋さんをいじめていた。


 マオリの家の車も別に高級車などではなく、ワゴンタイプのカローラだ。


 でも、もしそれを買い換えるという話になったら、マオリとしては目の前に並んでいるそうそうたる外車よりも、ここまで連れてきてくれた水色のパオの方がずっと好みだった。


 どう見てもヨーロッパの由緒あるホテルのようにしか見えない華美な玄関を通ると、高い天井と大きなシャンデリアがマオリたち一行を出迎えた。


 これが個人の家。


 もちろん奥のほうに行けば、落ち着いて過ごせる部屋もあるはずで、今見ているのはあくまでもお客を出迎えるための場所なのだろうけど、それにしたってこれは凄い。


 正面には大きな階段があって、そこは新内閣の組閣写真を撮るのにも不都合がなさそうなほどの幅と格式があった。


「古橋くん、口開いてるよ」

 そういう鈴さんも落ち着きなくあたりを見回している。


 数人のスーツを着た男の人たちがソファーに座って談笑していた。その奥には大きな赤い扉があって、扉を通して中から大勢の人の声が僅かに響いている。


「あれ、今日もパーティやってるっぽいじゃん。明日のレースの壮行会みたいなのかな」

 古橋さんが呟く。時間は九時を廻っていた。顔を出さなければ失礼なのだろうか。


「やあ、古橋さん。良く来てくださいました」

「あ、どうも」

 古橋さんが挨拶すると、マオリたちも釣られて頭を下げた。

 どうやらその人は古橋さんが東京で会ったという聖澤家の関係者のようだった。


「なんかぞろぞろと来てしまいました」

「構いませんよ。部屋にご案内いたします。お疲れでしょうが、少しで結構ですので、宴に顔を出していただけますか?」


「ああ、はい。分かりました」


 その人の後ろをついていく途中、マオリは横道にそれて、会場のドアを少し開けて中を覗いた。そしてすぐに戻った。


 客用の寝室は二部屋準備されていて、部屋割りは片方が古橋親子で、もう片方が真田親子とマオリとなった。


 高級ホテルのスイートルーム、というものは想像でしかないが、恐らくこのような感じなのだろう。大きなベッドに肌触りの良さそうな布団。床にはブルーのふかふか絨毯。壁には、異国の風景が描かれた絵。


 マオリは旅行カバンのチャックを開けた。中から、すばやく準備してきた洋服を取り出し、ハンガーで壁にかけた。白パターンと黄色パターンを並べて、マオリは腕組みをしてそれらを眺めた。


「へえ、いいじゃない」

 鈴さんが同じように腕を組んで、マオリの横に立った。そのまた横では祐樹くんも同じ体勢で立っている。かわいい。


「しわはついてないわね。すぐに着れるわ。さてどうする? マオリちゃん」

「結婚式の披露宴みたいなのを想像していたんですけど、みんな、もう少しくだけた感じなんですよ」


「ああ、さっき覗いてたね。ということは、二次会から参加する人の格好みたいなイメージかな」

「だから、こっちでいきます」

 マオリは黄色いワンピースを指差して、さっそく着替えだした。


 鈴さんは、洗面所で簡単に化粧を直していたが、恐れていた通り、迷彩柄のパーカーのままで乗り込むつもりのようだ。祐樹くんは、まあ小さい子供はそれでいいと思うけど、アニメのキャラクターの大きなワッペンが胸のところについた、赤と青の柄のセーターを着ている。


「ワッペンね。祐樹の勇気の印なのよ。ね、それをつけていれば注射で泣かないんだもんね」

「うん!」


 勇気の印。マオリはご利益にあずかろうと、それを触らせてもらった。ドアをノックする音。外から「もーいーかい」という古橋さんののんびりした声。マオリは胸が高鳴った。

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