08 魔族の戦い 1
俺は自分の城で深い溜息を吐いた。
マリアを傷つけるつもりは無かった。まさかマリアが本当の戦いだと気付いていないとは思っていなかったんだ。
城ができた時にも案内した。
配下が俺に、王よと、頭を下げるのも見ているはず。
「なあ、じい。俺が悪かったんだろうか?」
「左様ですな。坊っちゃま。」
「何が悪かったんだ?」
「お言葉が足りませんでした。」
じいが言うには、まず俺が魔族という事を伝えていないことから、言葉足らずだと言う。
だが、俺の力は見ているはずだ。
「普通の人ならば、それで力の強大さに気づくものでしょうが、マリア様は、違います。あの方は坊っちゃまに勝るとも劣らぬ力の持ち主でいらっしゃいます。それでいて、ご自分の特殊性に全く気付いておられません。」
「まさか、マリアは自分が普通だと思っているのか?」
「勿論でございます。」
「ありえないだろう?あの金ピカの茸に魔法使い達がどれだけ興奮して騒いでいたと思うんだ?」
「それは他人様の視点。マリア様の視点では、ただの元気になる茸でございます。」
「う……」
俺は髪に指を突っ込んでガシガシと頭を掻いた。
マリアに許してもらうにはどうすれば良いんだ?もう俺はマリア無しでは生きていけない。
マリアを戦闘に参加させたくなんてない。でも人数で劣る自陣の事を考えると、マリアの回復魔法は喉から手が出るほど欲しかった。
「正直に全てお話なさいませ。マリア様ならきっと聞いて下さいますよ。」
「俺が、人で、なくても、か?」
「はい。」
「決してマリア様を悲しませないとお約束なされば良いのです。」
「悲しませない?」
「はい。必ずきちんとお約束なさいませ。」
「……わかった。」
そして、俺は約束の三日後迄に、己のすべきことを片付ける事にした。
今日の戦いは総力戦だった。残るは篭城している敵本陣のみ。
魔将は全て片付けた。明日は味方とあちらの城に乗り込むのみ。
「我が君、飲み物をお持ちしました。」
部屋の隅から、静かな声がする。銀色一色のその男は、あいつらのやり方についていけなくて、一度は魔界を捨てて人界へと去った者だった。
それがどういう運命の悪戯か、マリアの家に居つき、俺と出会う事になった。
ネズミの頃はマリアの練習という名のお遊びに付き合って、大変だったらしいが、彼女を恨んだ事は無かったと言っていた。
人間界において、ネズミはただの害獣。怪我をさせられたと言っても直ぐに治してくれるし、必ずお詫びと美味しいものをくれる。汚れていると、桶にお湯を汲んできて綺麗に洗ってくれたらしい。
寒い日には、毛糸で巣を作ったり、こっそり自分のベッドに入れたりもしてくれたと言っていた。
確かにマリアは破格だ。自覚は無いが。
そんな彼、シュトウナーは今では俺の腹心の部下だ。剣も魔法も強いし、判断が素早く的確だ。
俺は彼が持ってきた飲み物を一口含み、ふーっと息を吐いた。
マリアへの説明は明日が終わってからだ。今は、明日の戦いに集中しよう。
「我が君、弟君のヤヌス様が貴方様との会談を申し出ておられます。」
「は、今更か?命乞いでもする気か?」
「どうやらそうでは無いらしく、武器も持たずにこの城におひとりで来られました。」
「一人で?あいつ、何を考えているんだ!」
「お話をなさいますか?」
俺は少し考えた末、小さく頷いた。
俺の狙いはあの女と父親。
どんなつもりで来たのかは知らないが、話を聞く位は良いだろう。
魔法で俺に立ち向かうつもりなら、相手をしてやろう。
俺はシュトウナーと爺に頷いて、席を立った。
話を聞いてやろうでは無いか。