07 戦争ごっこに参戦してしまった
私は14歳になった。
小説では、おじいちゃんが危篤になる年齢だ。今のところ、おじいちゃんは元気そう。あれからおじさんもすっかり元気になったようだ。
ポル茸の無い季節には同じ効果のある木の実を送ったり、草を送ったりしているんだけど、知らないおじさんが物凄く喜んでご機嫌らしい。
「迎えに来たぞ。」
「あ、ごめん。今支度する。」
私は手早く髪を高くひとつに結び、デュークの手を掴んだ。一瞬景色が飛ぶと、全く違う場所に出る。
デュークの転移魔法は凄くって、どこに飛んでいるのか、私はよく知らない。
ちょっと岩場がゴツゴツしていて、何処か荒れた感じがするところが、最近の遊びには雰囲気が出てそれらしい感じになる。
前世でサバイバルゲームをしていた人達なら、大喜びしそうな雰囲気だ。
デュークがはまっている遊びは、戦争ごっこ。
私は、そこで女神様のような役をさせてもらうことになっている。
「何だか人数増えてるね。」
「そうだな。」
そう言うデュークはちょっと嬉しそうだ。
最初の頃は人数も少なくて剣術ごっこっぼかったけど、今は300人ぐらいいる感じ。
みんな仕事は大丈夫なんだろうか?
この2年で私も少し大人っぽくなったけど、デュークは別人みたいだ。
美少年だったのに、少年っぽさがなくなって、背も伸びて、体も逞しくなった。
肩ぐらいまでの黒髪は、今は背中の中ほどまであって、銀色の結び紐で縛っている。声だって、低く通る声で、疲れている時の少し掠れた声は、聞くだけでドキドキしてしまって、誤魔化すのに苦労する。
あの小説の魔王に少し雰囲気が似た、大人の男になったデュークだけど、時々私には見せてくれる無防備な笑顔が昔と同じデュークなんだって感じさせてくれる。
あ、そろそろ始まるわね。わぁ、なんか、本格的!
味方側と敵側に別れて戦うんだけど、味方側には時々回復魔法をかけて欲しいと頼まれているから、頑張らなくちゃ。
近くに行き過ぎると危ないらしいので、高い崖の上からデューク、爺と共に、戦場を見下ろしている。
今日は少し強めに回復をかけよう。闇5水8それに全体だから風4で良いかな。
「回復します。」
握った手を開くと、怪我で後方に下がった人達対象に魔法を行使する。
怪我した人達が、喜んで私に向かって手を振ってくれる。もちろんそれに振り返し、また入れ替わりの人達に魔法をかける。
「そんなに連続で大丈夫か?」
心配そうに私の顔を覗き込んでくるデュークに、笑って頷いた。本当に大丈夫なのに、心配症だ。
私の魔力は、この2年で凄く強くなった。小説では学園で覚醒して凄く強くなっていたけれど、これ以上強くなると、ちょっとマジヤバイ。
それこそ魔王だって指先ひとつで倒せるかもしれない。ちょっとここら辺で止まって欲しい。
「大丈夫。心配しなくて良いよぉ。」
「いつ見ても見事だな。」
「そう?」
「それに魔力の色が凄く綺麗だ。」
デュークも色の見える人だから。彼から見ると、私の魔力は蜂蜜のような優しい金色なんだそうだ。
私から見るデュークの魔力は、紫色を帯びた濃い藍色。
もし、もしもよ。私達2人の間に子どもがいたら、何色の光を放つのかしらね。
眼下の戦いが終わって、味方側が大声で勝利の叫びをあげている。
中には泣き出す人までいて、しゃがんで地面を叩きながら涙していた。
「これは遊びじゃない。」
後ろからデュークの静かな声が聞こえた。
遊びじゃない?それなら、何なの?
「マリアに何も言わずに付き合わせてしまい、申し訳ない。だが、人にとって悪しき結果にはさせないことを俺の全てをかけて約束する。」
「どういう事?これは本当の戦闘だったの?」
「そうだ。」
「嘘。」
じゃあ、あの敵側の人は、倒れている人は、死んでいるの?
「まだ死んでいない。彼らにも考える余地を与えたいと思っている。」
「……」
「怒っているか?」
「……当たり前。」
「まだ全てを話す事はできないが、近い内に説明をしに行く。」
「いつ?」
「三日後。」
「わかった。」
騙された訳じゃない。だってデュークは遊びだなんて一言も言わなかった。私が遊びだと思っただけ。
それでも、彼に裏切られたような感じがする。
「帰る。」
「送るよ。」
「良い。」
「送らせて欲しい。」
「……わかった。」
デュークに送られて自分の部屋に戻ると、私はベッドに突っ伏して泣いた。
大好きなデューク。私は彼がいつからか大好きになっていた。その彼に裏切られた気がして、私は夕飯も食べず、部屋に籠って泣いた。
泣いて泣いて、目が溶けてしまいそうだった。