01 小説世界に産まれてしまった
こんにちは。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
やってしまった。
目を覚まして、鏡に映る自分の顔を見て、最初に思ったのはそれだ。
私の名はマリア。そして、今日は私の10歳の誕生日。
その楽しい日に私は自分の前世を思い出し、この世界が私が好きだった小説世界である事に気がついて、目の前が暗くなった。
マリアはヒロインで、田舎暮らしだけれど、実はバスティス公爵家の血を継いでいるお嬢様。騎士と駆け落ちした令嬢の一人娘だ。
小説ではこの田舎娘がおじいちゃんが危篤になって、突然公爵家に行く所から始まる。
田舎娘に国を代表する公爵令嬢なんて無理だった。頑張って頑張って、でも周りに異端視され、虐められ、遂には庇ってくれた父さんが大怪我を負ってしまう。それが悔しくて憎らしくて魔力暴走して魔女に闇落ちし、家を飛び出す。
そんな彼女を救ったのは隣国の王子。彼は国を攻めてきた魔王に対抗出来る戦力を求めて、力になってくれる仲間を探していた。そして、魔女であるマリアに助けを求めてきたのだ。
その真摯な願いと彼の優しさに心を癒されて、マリアは彼と共に魔王と戦う。
そして勝利した時にその姿は美しく光り輝き、聖女へと姿を変える。彼女の涙を愛する王子に優しく拭われながら、彼女は彼と口付けを交わす。ハッピーエンド。
いや、ねー、最後はハッピーエンドだよ。だけどね、実際にそこまでが辛いじゃない?
ないわ。ないわぁ!嫌すぎるじゃない。
だって、私、今、幸せだもん。
お嬢様より、村人が良い。
ただの村人にしては変な設定が色々あるけどね、妙に美人だったり、魔法使えたりね。
でもその魔法が、また問題なのよ。
私が虐められた原因の一つが魔法なんだな。父さんが父さんのおじいちゃんから教わった魔法。これが特殊すぎるのよね。
普通、魔法は詠唱しながら魔法陣を描いて発動する。火なら火、水なら水だ。でも私たちは指に属性を与えているので、魔法式通りに指を使う。親指は光、人差し指は火、中指は水、薬指は風、小指は土。例えば弱い回復魔法なら、光3に水2で魔力を流す。それを意識して手を握り、開けば発動。再発動は握って開くだけだから、連続発動も簡単。
でもこれは他の人にはできない魔法の使い方。
父さんは騎士だった頃、魔法は使えないふりをしていたと言っていた。
父さんが魔法を使ったのは、母さんを助けた時だけ。自分はろくすっぽ魔法が使えないけど、魔法の色が見えるー私も見えるー母さんは、その色の綺麗さと、自分を守ってくれた父さんの横顔に一目惚れしたんですって。
「マリア、魔法は便利だけれど、使い所はよく考えるようにな。」
そう言いながら父さんが村の暮らしでは、畑仕事に魔法を使っているのを、私はちゃあんと知ってるわ。耕したり、水撒きしたり。
でもね父さん、合成魔法はすごく便利で優秀。魔法陣っぽいものを描き出して、属性魔法っぽいものを発動するのも多分可能。私はそんな研究も、もしもの場合の為に準備しようと思っているのよ。
父さんは知らなかったけど、唾液をつけると、指の魔法が変わるんだよね。
光は闇に。火は氷に、水は空間に、風は雷に、土は重力に。絵的には指先に口付ける感じかな。
光は解毒はできるけど、解呪は闇。空間はそのまま空間を扱うから、移動や収納なんかに便利。重力は相手にとんでもない重力をかけることも、浮かぶこともできる。
魔女になったのって、納得かも。
そう言えば、お母さんに兄弟はいないのかしら。小説では後継者がお母さんしかいなくてってなってたような……
「お母さん、お母さんはマリアと一緒で一人っ子?」
「え?どうしたの?突然。」
「ん、何となく。」
「……体の弱い弟がいるわ。」
その人を思い出したのだろうか。お母さんの笑顔が何処と無く寂しそうだった。
おう、弟がいた。小説では死んでるんだろうなぁ。待って!この人が元気になったら、良いんじゃないかな?
真剣に悩む私の横で、仲良しの両親が話している。
「突然どうしたのかしら?」
「弟か妹が欲しいんじゃないか?」
「あなた。」
「ねぇ、僕ももう一人子どもが欲しいな。生活も落ち着いたから、大丈夫だよ。」
「あ、あなたったら。マリアが聞いてるわ。」
「聞こえてないよ。なんか真剣に考え込んでるからね。」
聞こえてます。本当に仲良いなぁ。
ああ、そうか、とりあえず、おじいちゃんと弟に元気になって貰ったら良いんじゃないかな?
でも、今日は、誕生日だから、今はこっちが大切。
「お母さん、山に行ってマサルの実を採ってくるから、誕生日ケーキに使ってね。」
「分かったわ。気をつけて行ってらっしゃい。」
「はぁい。」
私は元気に玄関に向かって駆け出した。




