91、先触れ
馬車にして十台。なんというかこれまでの私の活動の集大成だね。
ハイエルフが何を気に入るかなんてわからないから、片っ端から持っていくし人も連れ行く。
ただしさすがにキルヒャー先生はいまやその知識が重要視されて、そのすべてを書き留めるまでは国から出ちゃダメだって。
代わりに彼の著書を持っていく。
面白いことにエルフは独自の文字を持たない。
古くは日本人もそうだったらしいからなんとなく親近感が湧くし、エルフの部族長がジャンクリン王国の言語を読み書きできる理由でもある。
いくら長生きだからって見聞きしたことをすべて覚えていられるわけもないし、口伝はどこかで変質したり欠けたりする。
ただやっぱりこれまでは記録媒体が限られてたから、あまりうまく活用できてなかったみたい。
紙はエルルたちが苦心して作ってるものだし、ペンと合わせて大量に持ってきた。
それから馬車を山車みたいに改造して、二胡をはじめとした楽器を扱えるエルフたちを乗せている。
琵琶とか琴とかまあかなりの水準にテリーたちが仕上げたから、なんたら十二楽坊みたいになってるよ。
練習も兼ねてジャンクリン王国内を移動中も日に何度か演奏。
王国民へのいいサービスになっている。
なんと言っても皆、娯楽に飢えてるからね!
獣人国との戦いを控えて目端の利く商人は活発に動いているようだ。
それがなくても日常生活が危険なことに変わりはないし、だからって暗く沈んで生きる必要もない。
町や村では寄ってくる子供たちにちょっとした焼き菓子をばら撒く。
子供より勢いよく突っ込んでくる大人が怖い。
少しは遠慮しようよ。
こそこそしないでむしろ派手にって後押しは、宰相なりの気遣いらしいね。
兄弟関係に嫌気がさして私が爆発するとでも思ったか……
「第一王子が筋道を付けたからこそ後は誰でもできる簡単なお仕事です」とかあっちにもこっちにも気を遣って、なんて大変なお仕事。
エルフの作法としても他部族を訪ねる時は賑やかに、こちらの存在を知らせながら近付くって聞いたから実行してみたけどどうかな?




