86、落書き
三人目は八歳の少年。
授業中もずっと俯いてて、声を掛ければ答えるけど常にワンテンポずれている。
くせ毛にソバカス、よく見れば愛嬌のある顔だ。
プレ授業の期間中、生徒たちの言動は事細かに私に報告されていた。
そう貴族は常に見られているのだよ……私も含めて。
授業内容を書き留めるように全員に配った真っ白なノート。
その端に妙なものを書いてる奴がいるっていうからさ。
見たらパラパラ漫画。パラパラ漫画だよ!
この子天才じゃないかなっ。
「学友」として呼び寄せた初日、侍従に引き摺られるようにしておずおずと私のところに顔を出したんだけど。
「絵を描くのは好きかい?」
「……え」
「君が描いてたこういうものだよ」
「……たの、しい」
「じゃあ、もっとたくさん描けるかい?」
「……かく」
こんな感じ。
ずっと集中させておいた方がいいのか、いろいろ刺激を与えた方がいいのか私もよくわからなくて迷ったけどとりあえず印刷所に連れて行った。
自分の描いたものがどうなるか知っておくのも悪くないだろう。
文官たちの執務室の端に置かれた印刷機一つからはじまったものが、いまは別棟を占領。
何台もの印刷機、速攻でインクを定着させるための火熨斗台、活字拾いだけでも二十人を超えている。
いつの間にかプレス機を転用して搾油機が生まれていたり、作刀の技法を用いた裁断機が置かれていたり、これが自然な発展なんだろうね。
よきかなよきかな。




