81、クッション
「座ってる子たちに渡せばいいのかしらね? ダン君」
「はい。恐れ入ります先生」
「いいのよ~」
私も手伝う流れなんだけど仮にも王子の私がそうすると、生徒たちも席を立って手伝い出すだろう。
それだとさっき座ったばかりの自分の席に戻れるとは思えない。
また一からなんて嫌だぞっと。
子供の方は比較的軽いクッションを任されたのだろう。
「どうぞこの上にお掛けください」
丁寧に頭を下げなら腰掛けてる生徒に渡そうとする。
慌てて隣の侍従が受け取って、軽く腰を上げた生徒の尻の下に押し込む。まあ自分の主人じゃないけどやることは同じだからね。
さらに慌てて次からは侍従の側に回ってクッションを配って歩く子供。うんうん、学習能力が高いね。
じつはこの子、砂時計の子もそうだけどテレンス音楽隊から二週間の契約で借り受けてる。
そうあの楽器狂いの通称テリー。
司祭を巻き込んで子供たちに礼儀作法も教え込んでるみたい。いいことだ。
演奏の腕もメキメキ上がって行儀もいいので、貴婦人たちのお茶会などに三~四人で出張することが増えてるんだって。
「この道具箱は机の上においてね。クッション同様滑り止めが付いているからそう簡単にはずれないでしょ? 蓋を開ければ物が仕舞えるし、その上で書き物をする十分な広さがあるわ」
戸惑いつつもそのようにした生徒たちは、パカパカと蓋を開け閉めして満足そうだ。
そう、なんか知らんけど楽しい気分になるんだよね。
侍従たちがそれを羨ましそうに見てる。
クッションと傾斜台を兼ねた道具箱でほんの少しだけど物理的に位置が高くなったこと、それと同時に羨望の眼差しに気付いた者も少なくなかっただろう。
鷹揚に頷いて立ったままの侍従たちに言ったものだ。
「いつまでも立っていないで掛けたらどうだ?」
「……失礼します」
どうせ授業の間だけのことだ。
侍従に特にしてもらうこともないし、あったとしてもそう大したことじゃなく現にいまさっきクッションを宛がわれたように誰がやっても変わりがない。
これでいいかしら?とでもいうように先生がウィンクする。
当初三十人と聞いて用意したものだったんだけど、急に倍の人数になったのでこれはお蔵入りかと……でも一応準備室に置いておいたら?と言った先生が大正解。
私は軽く目礼をした。




