80、時間
「クッションと道具箱を持ってきてくれ」
「畏まりました」
生徒たちは眼中にないようだけど、私の机の脇には二人の子供が立っている。
清潔ながらM&D商会で販売してる安価なお仕着せ姿なので、貴族からすれば無視していい存在だ。
その片方、授業の開始時に小さな鉄琴でチャイムを鳴らした子が、すぐ脇のカーテンを捲って教室を出てく。
じつはその陰にはもう一つドアがあって準備室代わりの小部屋につながっている。
もう一方の子供はその場を動かない。
五分ごとに砂時計を引っくり返して側の小さな黒板に「正」って図形を描く重要な役目があるからだ。
この世界、時計はあってせいぜい日時計だ。
だからこそ方角がわかっていたし、日の出から真昼、真昼から日の入りまでの時間を何分割かして、大雑把にだけど共通の時間認識を持つことができている。
でも十歳前後の子供にゴールが曖昧なまま長時間集中させることは難しい。
だから四十五分授業をして十五分の休憩を入れようと考えた。
昼休みは一時間三十分だ。
となればもっと細かく時の流れを計測しなければならない。
常に安定していて、私の感覚に残ってる一秒にぴったり重なるもの……ソイ先生の心拍一回を一秒と設定してみた。
それを基準にドワンが砂時計を作る。
ここまでで私は満足したんだけど、ドワンは何度も何度もその砂時計を引っくり返して、一日が八万六千四百秒つまり二十四時間だって確認した。
五体投地したくなったよ。ドワンの技術や拘りっぷりもすごいけど、ソイ先生の超人ぶりときたら……
でもいまは別の先生の話だ。
「あたしも手伝うわん」
くねっとターンしてカーテンの向こうに消えたけど、再び子供の手によって捲られたカーテンの向こうから現れた時は山のように道具箱を抱えていた。




