78、視力
ところで担当教授はというととっくに入室していて、教壇脇で乙女のように両手を組んでうっとりしてる。
「先生な私」に酔ってるらしい。
これがひょろりと背の高い見間違いようもなく男なので、こういう人種をはじめて見ただろう子供たちは、身分を嵩にきて威張ることも教師として頼ることもできず、ひたすら視界に入れないようにしている。
必然的に頼られるのは私。
まあ個人の資質じゃなく、裁定者は神でなければ世俗の身分で選ばれることが多いだけなんだけど。
「そうだね。一つこれは提案なんだけど、目の悪い子を前にしてあげたらいいんじゃないかな?」
「そうね、ダン君のいう通り。思いやりを示すのは貴族の立派な資質ですものね」
教授は生徒達とは別の意味……単なる癖で首を傾げてる。
「では先生お願いします」
「はいはい。では皆さ~ん、席順のことは一先ず脇に置いておいて、実際に自分がどれくらい見えているか視力を測ってみましょう」
視力? 視力ってなに?とざわざわする生徒たち。
「はいはい。質問がある時は手を上げて大きく『はいっ』と言ってみましょう」
「……はい」
勇気ある女子が一人、おずおずと手を上げる。
いちばん身長のある男子も、生意気そうな男子も尊敬の眼差しでその子を見る。
「視力とは何ですか? 先生」
「せ、先生……」
身をくねくねさせて浸ってる先生。容姿はさっぱりしてるのに言動が濃い。
私がコホンと咳払いをすればハッと我に返る。
「あら、ごめんさいねぇ」
黒板に力強く「視力」と書く。チョークがぼきぼき折れてもお構いなしだ。
慄く生徒たち。
「字で書くとこのようになります。そして意味、視力というのはですね、目で見て物の形や色などを知る力のことです。近くにあるものははっきり見えますが、遠くのものはぼんやり見えますね? そしてたとえばお隣の人がはっきり見えるものが、ぼやけて見える人もいます。そこで視力が良い悪いまたは弱いという言い方をしますが皆さ~ん、勘違いしないでくださいね。目が悪いとできないことは確かにありますが、知ることに熱心でずっと近くの物を見ているとこうなることが多いのです。現に先生もすごく目が悪いです。毎日毎日、一生懸命お勉強をしたからです。でも、こうやって眼鏡という補助具を付ければ、問題なく皆さんのお顔を見ることができます」
生徒達は立ったまま「ほへぇ~」というように先生の顔というか仕草というかまあ注目してはいる。




