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56、奏者


 通称テリーは、職人を二~三人付けて「こういうの」「ああいうの」って適当に指示すれば、喜々として新しい楽器を作り演奏方法を模索する。


 無難にオカリナからはじまって木琴、鉄琴……ギターの製作にかなり難色を示したのは「リュートの背中を切り落とすなんて」って理由。

 でも彼にとってスチール製の弦は未知との遭遇だったらしく夢中に。

 次いでぼんやりとしたピアノの設計図を目にしたドワーフたちが夢中に……確かに機械といえば機械か。

 幸いフェルトはあるし、あっ!下を通るとかぶれちゃう木、探してくれる?


 私としては、バイオリンとかビオラとか弓を使う楽器の製作をがんばってもらいたいんだけど。

 こう(はじ)く感じの曲もいいんだけど、ワルツを踊るにはなんか違和感があるんだよね。


 これまで合奏することはあっても二~三人がふつうだったところ、オーケストラの構想を伝えたらやっと弟子を取る気になったテリー。

 楽器を偏愛するあまり誰にも触らせたくない、教えたくないって困った奴なんだ。


 でもここでは珍しく意見の一致を見て、路地裏に(たむろ)する孤児をかき集めた。

 テリーははっきり言ったよ。

「芸を仕込むには若くて飢えてる奴がいい」


 もちろん素質のない者、理由なき反抗か努力をしない奴もいて、そういった連中はこれ見よがしに叩き出す。

 これは慈善活動じゃないってこと。


 もっとも演奏は駄目でも真面目にがんばる子は再び裏口から招き入れて、宿舎の清掃や雑用に使ってるみたいだけどね。


 こういう問題について王家は何もしていない。


 じつを言えば今の王が王子だった時、貧窮院や孤児院を創った……いやびっくりだよ、やるね父。

 でもその多くが民衆に打ち壊されたり火を掛けられたりしたんだって。


 彼らは王侯貴族が贅沢するのは当たり前だって思ってる。

 なぜってその力を恐れる一方でその力に守られてるのを自覚してるから。

 まあこっそり悪口くらいは言うだろうけどね。


 でもなんの力も持たず働きもしない奴らが、自分たちと同じかそれより良い暮らしをするなんて許せないってわけだ。

 雨風凌げる掘っ立て小屋と一日二回の腹七分目の食事は、汗水たらして必死の思いで税を納める平民の底辺を軽く超すからね。


 それでも憐憫の情がまったくないわけじゃない。

 民衆の気まぐれな善意は前世、野良猫に餌をやるのと同じくらいのレベルで存在してる。


 また少し知恵の回る子は坂道の下から荷車を押したり、川べりで洗濯を手伝おうと待ち構えていて、そうやってなんとか生きていけるくらいの豊かさをこの国は獲得しようとしてる。

 まだまだ一度の大嵐または日照りで壊れるくらいの脆弱なものだけどね。


 ちなみにM&D商会ではオカリナとタンバリン、玩具のラッパが人気だそうだ。



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