55、M&D商会
王都のはずれに小さな店を出した。
看板にはM&D商会って書いてあるけど、何の店か私にもわからない。
普通はパン屋にはパン、服屋だったら布地やハサミや針や糸、鍛冶屋には金槌なんかを象った看板が掛かってるものだし。
でもコンスタントに客は来てるって話だ。
売れ筋はオセーロって遊戯板。
それから麻布製だけどデザインが可愛くて割と安価なメイド服。
色付きでよい匂いのするロウソク。
本の貸し出しもしてるけど、これは大商家の隠居とか暇を持て余してなおかつ字が読める人の道楽だね。
もちろん買ってくれるなら大歓迎。
ほんとなら自分で店番したいくらいだけどそんなことは許されるはずもなく、侍従から話を聞くだけ。
でもやってよかった、面白い。
客からこんなものはないかってリクエストされるくらいだから、いまの売り子は適度にフレンドリーな良い接客をしてるんだろう。
細々とした玩具や生活雑貨が望まれる中で、異色だったのは楽器。
王でさえ吟遊詩人の来訪を心待ちにするような世界で、平民がそれを望むようになったなんて生活に余裕が出てきた証拠か。
とはいえ高価なものは論外だろうし、それ以前に楽器と言ったらリュート、ケーナくらいで、太鼓や角笛は戦う際の景気付けに、鐘は魔物の襲撃や火災を知らせる合図に使われることが多い。
……私、絶対音感とかないんだけど。
どっかに吟遊詩人でも落ちてないかと探させたらいた。
なんか手の腱を傷めたとかで、でも治癒魔法士に掛かれるほどの金がない。
楽器は奏者の自作ってことが多いらしく、売れば結構な金になるけど手放すことができずに行き倒れ。
保護した商人が完全に善意だったのか楽器目当てだったのかは不明だけど、生きててくれてありがとう。
問答無用で治癒魔法士を呼んで手を治させた文字通りの拾い物。
最低限、治療代くらいは働いてもらおうと思ったんだけど、音楽版のソイ先生って言えばいいのかな。




