50、初歩
キルヒャー先生が証言してる。ロキ先生は思い出話をしていただけだって。
そこに登場する「王家」がジャンクリン王国のものだとか、それに絡めてロキ先生が初代王弟の末裔だって思い込むのも、そこに自分を重ねてせめてかつての位置まで爵位を上げようなんて野心を抱いたのも某男爵の勝手だ。
「まあまあこんなものでしょう」
飄々と肩をすくめるロキ先生。
労いはしたものの私にとっても思うことがその通りになっただけで、じつのところ別の実験の方が気になってる。
まず隊列を組む。斥候を放つ。
柵で囲った陣地を作り、その前に穴を掘り、余裕があれば水を溜めたり木槍を仕込んで隠したりする。
いきなり仕掛けず矢を射り、スリングで投石し、柵越しまたは盾に隠れて槍を突き出し、そののち剣で切り掛かる。
機を見て騎馬を投入。真正面から踏み潰すか、横っ腹を食い破るか、後方に回って蹴散らすか。
太鼓の音によって前進後退、時に伝令を用い、特に撤退の合図に従うよう徹底する。
これらを時と場合によって組み合わせて戦う。
ゴブリンやオークには快勝してるけど、人が相手となればどうなるか。
まあフィクションから得たおぼろげな知識がもとだから手探りもいいところだけど、やってるうちにわかってくることもあるわけよ。
うちの護衛たちは当然思うところがあるようで、渋々だけどその有用性も認めてる。
「もう慣れました」「慣らされました!」
彼らのうち数名を派遣して例の男爵家の領軍を作り変える。
まずは敬礼と行進からだね。
某当主が迷うたびロキ先生の弁舌が冴える。
「あなたならば」「必ずや」「約束されたも同然」……やばい宗教かな?
そもそもこの男爵に逃げ場などないのだ。
ロキ先生はもしもの時は自分たちの正体をバラすって覚悟を決めちゃってるからね。
いずれジャンクリン王国が獣人国を降せば、族長たちには爵位をってことになって共に肩を並べる未来もあり得るけど、いまは自領に獣人を匿ってた咎で一巻の終わりってこと。




