45、老師
そうして素直に「服従」した狐人族だけど、頭脳派を自認するだけあって「嘘は言ってない、でも言ってないこともかなりある」状態を保とうとする。
普通の人の何倍も頭のあたりで電流が行き交ってるもんね。
しかしそこは私も、前世はもちろん訊かないと教えてくれないキルヒャー先生に鍛えられてるから。
『狐神様の慈悲』のもう一つの秘密を聞き出したよ。
いやだってあのガードの甘さで、この国でどうやって身バレしないで生活できてたんだって話。
正体を悟られた相手に飲ませるとその事実を忘れちゃうなんて、とんだ万能薬だ。
私の連れの騎士や兵士に彼らへの差別意識が見えたので、トムに命じて食事に盛ることにする。
先生方とトムは信用してるよ、ニコリ。
キルヒャー先生に確認したところ獣人の「服従」が覆されることはまずないらしい。
狐人族の場合、後から別の対象に「当てられた」場合は上書きされちゃうけど、それができる者はめったにいないだろうとのこと。
当てる直前のシャッフルっぷりったらなかったもんね。
とりあえず狐村には現状維持を命じておく。
相互理解のために狐人族から一人同行させる段になると、いちばんの長老が名乗りを上げた。
前の村長で「もういい年で農作業もつらく、もうこれくらいしか役に立てない」って姥捨山に向かうみたいな目をしてたからさ。
そういうの見ちゃうと逆に下にも置かない扱いをしたくなるでしょ。
キルヒャー先生と一緒に馬車に乗せ、風呂はもちろん一番風呂。
毒見は別として「ささっ、貴方が召し上がるまでは私も決して手を付けません」って毎回先に食事をさせる。
「いじめすぎだ」ってあのキルヒャー先生が同情してたよ。
だからってわけじゃないけどキルヒャー先生はこの老人を「老師」って呼び始める。
私は「ロキ先生」って呼んでるよ。
だってね、いくらうちが脳筋王国だからってその統治機構にいつの間にか組み込まれて税まで納めてるなんてどういう手腕?
しかも村ごとだよ?
代官や徴税官は税を納めてついでに賄賂渡しとけば多少のことは見逃すだろうけど、それにしてもね。
その上、何気に一族全体の能力が高い。
畑は精緻に整備され、当たり前のように家畜にも倉庫にも番号が振られてた。
子供も大人もすでに問題なくこちらの言葉で話してるし、行商人の巡回を待たず自分たちで産物を捌くことからも交渉事は相当に得意と見た。
ロキ先生に至っては、その言葉の端々から帝王学の薫りをそこはかとなく感じる。
獣人国では王の近くにいたのかもね。
キルヒャー先生も前職そうだったから思うところもあったかと思う。
だからって二人して「小憎らしい小僧」をサカナに盛り上がるのやめてもらえませんかね?




