40、花
情報通を自認する商人はもちろん家を持たない者たちすらも、この頃景気が上向いてるって感じるらしい。
それでも変化に付いてこれない貴族の一人や二人いるはずで、道中襲い掛かってくることもあるんじゃないかって手ぐすね引いて待ってたんだけど、いまのところそんな気配もない。
キルヒャー先生によれば歴代の王たちが反抗されれば嬉々として武力で潰してきたこともあって、いまはかなり落ち着いた時代なんだそうだ。
……まあ、でなければ二十人にも満たない人数で王子がのん気に旅などできないか。
極力、馬車にインさせられて、馬に乗る時はソイ先生か騎士と同乗するって条件付きではあるけど。
長めの昼休みを取ってミシェルのために押し花をしてたら、「食べるんですか」とか頓珍漢なことを言う奴がいる。
よし皆そこに直れ。
まだ花言葉など誕生してないようだし、そうでなくてもこの無骨な男共がそんな感性を備えてるとは思ってないけど、少しはこっち方面も仕込んでおかねば。
だって好きな女に何を贈るか尋ねれば「肉!」「魚!」……お前らは動物か。
それはもちろん食べることはとても重要なことだよ。
やたらの物をもらうなら現金がいいって向きもある。でもそれだけだと味気ないわけよ。
プラス女は綺麗なもの可愛いものが好きなんだって力説する。
気になる娘がいない?
だったら感謝してもし尽くせない母親や、生意気で可愛い妹に贈ってもいいと思うよ。
あとは兵舎の賄いさんとかね。
先生方も例外なく相手のイメージに合う花を摘んで、私の時同様トムに毒の有無を、キルヒャー先生にはおかしな謂れがあったりしないか一輪一輪チェックしてもらう。
あとは適当に私が手直ししながら紙で挟んで重石をするだけ。
ほら簡単でしょうが。
後日台紙を付けて報告書と一緒にまとめて送る。
連中もはじめはごちゃごちゃ言ってたけど、読み書きできる者が宛名を代筆したり、一言添えるならどんな言葉がいいか訊きにきたりしてたから、精神の潤いってものを実感できたかね?
お返しに想い人から下着をもらった奴は訓練と称して袋叩きにあってたけど、ずっとニヤニヤしてて気持ち悪かったね。
私にはミシェルが初めて刺した刺繍が送られてきたよ……フフフッ。




