35、庭師
庭師のトムは料理も上手い。
キルヒャー先生の世話に思いのほか手間がかからないから、他にも何かしないと居た堪れないそうで。
そりゃまあね。
野営場所を選んだら真っ先に穴掘って洋式便座を設置して、目隠しで囲ったとこまで板でスロープ付ける徹底ぶりだもん。
当然のように騎士は兵士に押し付けるけど、憚りの設営は戦場でも絶対に誰かがやらなきゃならないことだ。
王子の私? 当然やらん。
本来は地元の有力者の家に泊まるところだけど、それは最初からパスしてる。
どうしてもって無理やり歓待されたこともなくはないけど、設備も食事もシンプルで気を遣われすぎて疲れるし、どんどん野宿に傾くわけよ。
村はもちろん小さな町では宿屋なんてめったにないし、あっても木箱に藁を敷き詰めただけでベッド、それが置かれてるだけで宿だって言われもね。
まあ屋根と壁があれば雨風、夜露はしのげるし、獣や魔物、盗賊から身を守れるその安全を買うってことなんだろうけど。
で、トムだ。
「なんで庭師が」って下に見てた騎士たちも、ボア汁一杯でコロッと態度を変えた。
いやぁ、星の瞬き出した空の下。いいね、染みるねぇ。
取っ手をぐるぐるする丸焼き専用ギア、ダッチオーブンも作らせておいて正解だ!
それでパンも焼けるとか最高かよ。
ショウガやローリエなんかの絶妙な使いぶりがまた憎い。
がっちり胃袋掴まれたところで、獲物の追跡方法とか森歩きの仕方を教わってくるのだ者共よ。
騎士や兵士たちの索敵能力があまりにも低いので、いままでどうやって魔物を狩ってたのか訊いたら、奇声を上げたり武器をガンガンぶつけ合えば向こうから襲ってくるって、アホか……
その上、弓矢を使うのは卑怯とか。
よし、的当てで皆中できなかった奴は夕飯抜きな。
私?
私はソイ先生の指導のもと糞や踏み跡を探して、小さな弓で兎に矢を当てるくらいはできるよ。
刺さるとは言ってないし、魔法で足止めしてることは先生にはバレバレだけどね。




