32、遊学
今回、貴族家当主にだけは第二王子が領地を通過するって知らせてるけど、お忍びだから知らんぷりしてねとも伝えてる。
キルヒャー先生を高名な学者に仕立て上げて、私はその弟子って設定だ。ソイ先生は護衛。
まあ丸っきり嘘でもないし各先生方も私もごっこ遊びを楽しんでる。
行程もゆっくりだしね。
日に一時間は必ずソイ先生から型の指導を受けてるよ。
私の体格だと本物の武器は負担が大きいから木製のものを使うけど、基本中の基本を一通りやってみていまは刀一本に絞ってる。
ソイ先生はドワンが刀を打った時から刀の使い方を考え始めて、すでに形にしてるんだからすごいよね。
本人としては「まだまだ」で「これもまた奥が深い」って悦びを噛みしめてる。
私の主要武器を刀と決めたのもソイ先生だ。
槍に剣、斧や崑などほかにも様々な武器があるけど、私にいちばん馴染んでるんだって。
……前世では本物を見たことすらなかったけど、小説の描写や映像作品で見た殺陣なんかが脳裏に残ってるのかも。
出発前にドワンが私のいまの体格に合わせた刀を仕上げてた。
小太刀っていえばいいのかな。
ソイ先生が許可してくれた時だけゆっくりゆっくり型をなぞるけど、重い。
冴え冴えと美しすぎる刃に魅入られそうになるのと、これちょっとうっかりしたらスッパリいくわって怖れから、いつも途中で息するのを忘れる。
極まれに無限の世界っていうかね、ふっと気持ちが静まると言うか……ほんと一瞬だけどね。
もう一時間は、キルヒャー先生にあれこれ質問しながら城への報告書を書く。
宿とかその設備とか食事処とか充実していくのはこれからなんだろうけど、所々に野営地を整備しておくのも一つの手だとかね。
紙もペンも山ほど積んできてる。
毎日ミシェルに手紙も書くよ。送るのは一月に一遍くらいだけど。
キルヒャー先生もちょくちょく何かを書き留めてるけど、まだ見せてもらったことはない。
先生に文才がなかった時のために、私も「師曰く」とかメモっておいた方がいいのかな?




