第98話「嘘が下手ッ!」
奪われたジャミング装置を取り戻すために金庫室へやって来た。
今更だけどホントにココにあるのだろうか? 奪った本人はさっき谷底へ落してしまったから確認できない。
見つからなかったらメイドさんに聞いてみる、それでも見つからなかったら屋敷中の物をストレージに突っ込んで後で確認するしかない。
めんどくせーな、アッサリ見つかればいいんだが……
ガチャ―――
「あーもう! どうすれば開くのよ!」
「ん? センセーまだこんなトコに居たんですか?」
「あ! マッドネスチワワ! いいところに来た!」
だからその変なコードネームで呼ぶんじゃねーよ。
「あ、ケモ耳っ子救出できたのね? それでそっちが噂の白い少女…… え? もしかして魔人族?」
「ッ!」
そういえばセンセーは元英雄候補なんだよな、会わせるべきではなかったか?
「まぁそんなコトどうでもいいわ」
杞憂だった。
「それより金庫の鍵持ってない?」
「鍵?」
センセーの前には巨大な金庫、俺の身長くらいある。
金庫の鍵か…… もちろんそんなモノ持ってない、持っていたであろう領主と脱ぎ捨てられた贅肉と衣服は谷底だ。
文句言われるのも嫌だから知らないフリしよう。
「壊せばいいじゃないですか、センセー魔法使えるでしょ?」
「壊せるならとっくにやってるわよ、コレ多分ミスリル合金製よ、魔法で壊せるようなモノじゃない」
魔法じゃミスリル合金は壊せないのか、魔法ってもっと万能なモノだと思ってた。
「あ、あった」
「?」
「え? 鍵あった?」
「あ、ごめんなさい、鍵のコトじゃなくて取り上げられてた探査妨害のローブです」
ミトはフード付きの真っ黒なローブを持っていた、俺の中二コートと被る……
金庫じゃなくクローゼットに入ってたのか。
「わたし光に弱くてこれが無いと外に出れないんです、見つかって良かったです」
「そうか、それじゃ目的も果たしたコトだし俺たちは……」
ガシッ!
「お待ち!」
センセーに肩を掴まれる…… 嫌な予感しかしない。
「教師が困ってたら生徒は無償で手を差し伸べるべきでしょ?」
「それ普通は逆じゃないですか?」
「教師が困ってるんだから生徒は手を貸しなさい」
聞ーちゃいねー。
「センセー…… 俺がこの異世界に来たのも元を正せばセンセーのその我が儘のせいなんですよ? 少しは反省とかしないんですか?」
「私は悪くないでしょ、文句があるなら異世界召喚した神様にでも言いなさい」
だから「元を正せば」なんだろ、センセーが余計なことしなければ巻き込まれなかったんだから。
だがここでセンセーに恩を売っておけば後々プラスになる、仕方ない大人に成りきれない魔法少女のために俺が大人に成ってやろう。
「ストレージ収納:金庫」
フ―――
「!? は!? え!?」
ストレージに入れた物はスマホ画面にリストが並ぶ、その中から契約書を取り出してやれば……
バサッ
「はい契約書です、どーぞ」
「あ、はい、どーも…… てかこんな簡単に? このチート野郎……」
チート魔法持ってる奴にチート野郎と言われても…… まったく助けがいのない……
「センセー、これは貸しですからね?」
「ハイハイ判ってるって、通知表に花丸付けてあげる」
ハァ…… もう助けるの止めようかな?
ドオォン
ドオォン
「おっと、とうとう魔王軍が本格的に攻撃を開始したか、それじゃ俺たちは……」
「大変! こんなところで君たちの相手してる場合じゃなかった! 私が行かないと避難誘導できない! それじゃお互い生きてたらまた会いましょ」
それだけ言い残すとセンセーは去っていった、誰のせいで時間を無駄にしたと……
「ご主人様…… あの人ホントに教師なの?」
「いいや、魔法少女に転職したんだ、もう教師じゃない。
俺たちも行くぞ、ベルリネッタ達と合流する」
異世界に来れば人種や性別が変わることだってよくある、人格や倫理観が変わるなんて珍しくもなんともないさ。
―――
――
―
ビターン!!
ビチ!ビチ!
正面玄関から堂々と出ていこうとしたら外は阿鼻叫喚の地獄だった。
体長4~5mはある巨大なサメが飛んできて、そこら中でビチビチ暴れ回ってる……
アサイラムかよ…… チェーンソーが欲しくなる。
サメは街のほうにも降りていて人々が逃げまどっている、どうやら巨大水ヘビが無秩序に発射しまくってるらしい。
そんなランダム発射してるもんだから橋の欄干にぶつかって谷底へ落ちていくサメも少なくない。
ピコン!
「ん?」
バキバキッ! ドスン!!
「うおっ!?」
「きゃぁーーー!!」
「ひっ!?」
一匹のサメが玄関屋根を突き破って目の前に落ちてきた。
「ごっ! ご主人様!!」
「イヅナ君ッ!!」
「この……ッ!」
バキッ!
噛みつかれる前に玄関の外へ蹴りだしてやった。
これはちょっと外に出れないぞ…… しかしいつまでもここに留まっているのも危険だ。
あの巨大水ヘビが体当たりしてきたら橋が崩れかねない。
こりゃベルリネッタに迎えに来てもらった方がいいか……
ピコン!
またか…… またサメが降ってくるのか……
「見つけた……」
「?」
声のする方へ視線を向けると一人の男が空中に立っていた、フライングヒューマノイドじゃん。
見た目は赤眼・黒髪・小麦色、そしてヤギのようなギザギザなツノ…… 魔人族だ。
「あ…… そ……そんな…… アスキス卿?」
「? ミトの知り合いか?」
「わ……私が一方的に知ってるだけです…… あの方は魔王軍《六魔卿》の御一人、《魔子爵》ヴィンセント・ブロウ・アスキス卿です」
ろ……六魔卿!? 魔王軍の大幹部じゃねーか! なんでそんな大物が出てくるんだよ? ユグドラシル侵攻くらいの軍事行動に六魔卿が付いてくるのは判る、だが脱走兵捜索……それも魔無の小娘一人だ、そんな捜索に子爵様が出てくるなんて不自然だ!
何か…… 別の理由があるんじゃないか?
「ミトって……もしかして魔王軍の重要人物だったりする? 例えば……魔王の娘とか?」
「この無礼者がぁぁぁーーーッ!!!!」
ミトに聞いたのにアスキス卿が大激怒した、ちょっと人の会話に入ってこないで貰えません?
「そんな小娘に欠片ほどの価値もないッ!!」
「ぁぅっ…… まぁそうですけど……」
そんなコトは無い、ミトには「可愛い」って価値がある。
地球だったら例えアホでも見た目が可愛ければアイドルにだってなれるんだから。
「だったら何なんだこの大騒ぎは? 価値が無いと言いながら《六魔卿》自らが探しに来るとか普通じゃないだろ?」
「ふん、重要なのはそいつが魔王軍を離反した事実の方だ」
脱走兵を見せしめに殺すってコトか? いや、そんなコトの為に大幹部が出てくるとは思えないな。
「魔王城から脱走するなど容易くできる事ではない」
「そりゃそーだろーさ」
「そんなコトを魔無がやってのけたのだ……」
あぁ、なるほど…… 本命はそっちか。
「そいつには協力者がいるはずだ、それはつまり魔王軍の中に裏切り者がいるというコトになる」
「そッ……それは……」
「さぁ話してもらおうか? 魔王軍離反の手引きをした者の名を」
これは予想なんだがミトの協力者は魔王軍の中でも結構高い地位にある者なんじゃ無いだろうか?
アスキス卿の口振りでは下っ端の手引きとは思っていない。
「そ…… そんなヒト居ませんよ~(棒)」
「…………」
「…………」
「…………」
嘘が下手ッ!
ミトは視線を泳がせて吹けもしない口笛を吹いてフュ~フュ~言ってる。
まるで漫画みたいな誤魔化し方だ。
「ほぅ? だったらどうやってトランレードを動かした?」
「え…… あ~…… 勝手に……」
「制御室で誰かが動かさなければトランレードは起動しない」
「え~…… 誰かいたのかもしれませんね~(棒)」
「つまり協力者がいたんだな」
「え!? 居ません!! きっとポルターガイストです!」
「なるほどポルターガイストか……」
「そうですポルターガイストです!」
それで納得する奴はいないだろ……
「どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのだッ!!」
「ひぇ!? な……なんで……??」
そりゃ怒るさ、政治家が不祥事の責任を秘書に押し付けた時くらい信憑性が無いもん。
「もういい、どうせ最初から素直に口を割るとは思っていなかったさ」
「あ……諦めて下さるのですね?」
また自白してる……
「コレを使うだけだ」
そう言うとアスキス卿が懐から何かを取り出した。
輪っか…… 隷属の首輪か……
ま、拷問するより確実性が高いスマートな方法ではあるな、だが……
スッ―――
「なんだ小僧? 邪魔をするならお前も一緒に奴隷にしてやるぞ?」
はぁ~…… なんでこの世界の男はどいつもこいつも俺を奴隷にしたがるんだ? 俺ってそんなに奴隷向きの顔してるのだろうか? 美少年は辛いヨ……
え? なんで美少年かって?
異世界モノの男奴隷といったらガチムチの戦闘員か、痩せ細った浮浪児か、バックに花が咲き乱れる美少年のどれかだろ?
この三択なら美少年しかありえない!
「悪いが彼女は俺が保護すると決めた、アンタの好きにはさせない」
「イヅナ……君///」キュン
よし! 隠しパラメーター《好感度》アップだぜ!
舞台装置はもう用済みだから帰ってくれ。
「ふん、ならば抗ってみろ、お前たち三人仲良く奴隷にしてやる」
ですよね~
「ぐわっ! 三人! ご主人様が煽るから巻き込み事故もらった!」
いやキララは元から奴隷なんだから巻き込み事故というより最初からレッカーされてた車だろ。
《特別解説》
『アサイラム』
アメリカの映画製作会社。B級サメ映画ばかり作ることで有名。
噂では変なサメ映画ばかり作るのは日本人のせいらしい。




