第96話「ミト」
― 大神キララ視点 ―
「有り難い話だけど私にはかかわらない方がイイ……」
うわっ! めんどくせータイプだ!
この世には助けを申し出ると「これは俺の問題だ、部外者は引っ込んでろ」とか言っちゃう人がいる。
プライドとかが邪魔することもあるだろうけど魔無はスタート時点でアホみたいなでっかいハンデを背負ってるんだから助けてもらえばいいじゃん! 別に交換条件とか出してないんだしさ! 悲しい過去回想とかいらないから。
「もっとも……」
「うん?」
「もう手遅れかも知れないけど…… もしそうならゴメンナサイ」
フラグが…… 現実だとほとんど役に立たない「嫌な予感」も異世界でなら超高確率で機能するんだよね……
「えぇっと…… 手遅れってナニが?」
「私は…… 魔王軍に追われているから……」
「魔王軍!? 脱走兵なの!?」
「兵じゃないけどね……」
魔無だもんね、戦力にならないのは判ってる。
「魔人族は陽界へ来る時、身体の刻印が施されるの」
「刻印って…… もしかして下腹部?」
「普通は腕とか背中ね、下腹部にいれた人ってのは聞いたコト無い」
ふぅ~、例の紋章じゃないのか……
「話の腰折ってゴメン、続けて?」
「え…えぇ…… この刻印っていうのは刻まれた人物の居場所や生死を知るために使われるのよ」
「居場所や生死? それって遠くからでもわかるの?」
「えぇ……」
「そ…… そんなの入れられてて脱走したの!?」
逃げられるワケないじゃん! 身体にGPS埋め込まれてるようなものだよ!
「逃げ出すのを手引きしてくれた人がいて、その人から刻印を誤魔化す効果のある道具を渡されたの」
「な……なんだ、それなら大丈夫じゃない」
「それが…… ここに捕らわれた時に取り上げられちゃって……」
ジャミング装置を手放すとか……
「ダメじゃん!! そうゆう大切なモノは奪われそうになったら飲み込むとか●●●●とかに入れてでも死守するモノでしょ!!」
「え……でも…… 飲み込むとかそんな小さなモノじゃないし…… 下手に抵抗して壊されても困るし……」
「もうすでに困ったことになってるじゃん!」
「で……でも、魔王軍だって探しても見つからない脱走者をずっと探し続けてるとも限らないし、もうすでに死んだ者として処理されてるかもしれないし……」
甘い!! ザッハトルテより甘い!!
そんな自分にとってだけ都合の良いコトが起こるほど異世界は甘くない!!
「これは由々しき事態ね、アナタの処遇は一旦置いておくとして今は私たちの指示に従ってもらいます! とにかくジャミング装置を……」
「ちょ…ちょっとッ! だから私にはかかわらない……」
「黙らっしゃい! 魔王軍が来て困るのはどっちも一緒でしょ! もはや運命共同体なのよ!」
「ッ!?」
ご主人様に連絡してすぐに動いてもらおう。
ベルリネッタ様に全てを灰燼に帰してもらった方が手っ取り早いけど、私たち以外皆殺しはやり過ぎだからね。
「それじゃ今から……って……」
「?」
「ゴメン、私自己紹介はしたけどあなたの名前聞いて無かったわ」
「あ……あぁ、私はミト、姓を貰えなかったからただのミトよ」
姓を貰えなかった? 魔人族独自の文化かな? 六魔卿みたいな貴族階級だけが姓を貰えるのかも。
「ミト……ね、ヨロシク、それじゃ今からご主人様と連絡とるから」
「連絡って……どうやって?」
「科学よ! これこそが反魔力同盟がこの世界で最強の集団たり得る根拠よ!」
ピ ピ
プッ ツー ツー
「…………」
プッ
ピ ピ
プッ ツー ツー
「話し中かよッ!!」
「???」
― 神楽橋飯綱視点 ―
ピロン♪
『緊急事態発生』
「どうした? 地震か? それとも某国がミサイルでも発射したか?」
『マスター、窓から南の方……見て』
南? 見えるのは相変わらずの目が眩みそうな大自然…… でも同じ景色なんか5分も見れば十分かな?
「何か来るのか?」
『谷底……』
谷底? ……ん? 何か茶色いものが上ってくる?
あれは…… 水? ポロロッカ的なヤツか? 例え大量の水が押し寄せたとしても深さが1km近くある谷に架かる橋の上だ、この高さまで水がくることは無いだろう。
『あれは魔王軍……』
「は?」
『あの泥水の中に数千の魔物が潜んでる、魔王軍の侵攻部隊……』
マジか…… 何だってこのタイミングで……
いや、考えようによっては好都合ともとれる、魔王軍が侵攻してくれば混乱が起こるのは必至、その混乱に乗じて色々暗躍できる。
ようするに犯罪行為の隠ぺいに役立つってコトだ。
しかし……
ザザザザァーーー
ポロロッカでかなり水位は上がったが橋までは全然届かない、これじゃ混乱は起こらないか? そもそもこれが魔王軍の侵攻だって誰も気づかないんじゃないか?
グググーーー
「ん?」
更に水位が上がった? ……というより水が盛り上がってる?
ザパーーーン!!
「なっ!? 何だアレッ!?」
滝が逆流するかのように水が縦方向に流れて…… 立ち上がった!?
まるで泥水でできた蛇みたいだ。
カン! カン! カン!
ようやく警報代わりの鐘の音が鳴り響く。
この状態から魔物数千体による侵略が始まるとなると結構ヤバいことになるぞ。
「とにかくキララと合流する、ナビヨロシク」
『イエスマスター』
「んでセンセーの方は……」
「契約書を確保する、あと奴隷女性の避難誘導ね、そっちは街に潜伏してるフラワーガーデンのメンバーが手引きしてくれるはず」
…………
「センセー、今さらですけど避難誘導ちゃんとできますかね?」
「なんで?」
「だってフラワーガーデンのメンバーって強面だらけじゃないですか」
「キミは人を見た目で判断するなって日本で学ばなかったの?」
「いや~、ここ日本じゃね~し、如何にも女性を攫って慰み者にしそうな顔してるじゃん、俺が女ならアイツらにはついて行かない」
「…………」
「…………」
「ほ、ほら、見た目は不良でも川でおぼれた子供を助けるヤンキーっているでしょ?」
「い~や、きっとスマホで動画撮影してネットに上げてるね」
正義感あふれる不良なんて漫画の中にしか存在しない、オタクにやさしいギャルと一緒だ。
「わ……私が行けば問題ないでしょ!」
アラサーの魔法少女もかなり怪しいけどね、それでも顔面盗賊たちよりはマシか…… センセーは若く見えるし。
ま、そっちは任せるしかないな、俺が如何こうできる話じゃ無い。
「それじゃ健闘を祈ります」
「うぐぐ…… そこまで考えてなかった……」
な? 見た目って大事だろ? 日本だって美男美女の方が就職に有利なんだから。
― 大神キララ視点 ―
チャーラーラーチャララチャララチャーラーラー♪
「ッ!? な、なんの音!?」
「あぁ私の暴れ〇坊将軍着信音よ」
「暴れ……? 将……軍??」
「今度じっくり教えてあげるから…… もしもしご主人様?」
『キララ無事か?』
「袋詰めのまま放置されて危うく尊厳を失うところだった」
『無事そうで何より』
いや…… 無事だけどさ、あのまま放置されてたら結構ピンチだったんだよ?
真っ先に私の無事を心配してくれたから許してあげるけど……
「それでねご主人様、ちょっとマズい事になりそうなの」
『残念ながらすでにマズい事になってる、鐘の音が聞こえないか?』
「鐘の音?」
『どうやらこの部屋って完全防音みたいだな』
「一体ナニが……いや、それよりご主人様いまドコ?」
『キララが閉じ込められてる部屋の前、今から扉を蹴破るから離れててくれ』
蹴破る? この頑丈そうな扉を? あ~でもご主人様なら出来そう……
『《揚げ足取り》』
ドゴォォォーーーン!!
「うわぁっ!?」
「ひっ!?」
危なッ!? 蹴破られた扉は部屋の反対側の壁まで真っ直ぐ飛んでいった、射線上に居たらペチャンコに潰れてたよ。
破られた扉の外、ご主人様は足を90度開脚した状態だった。
それにしても片足上げてるから揚げ足取りって…… 相変わらずご主人様の技名のセンスは理解に苦しむ。
「ご主人様、危ないよ」
「ちゃんと巻き込まないコトを確認してから蹴破ったぞ」
「あんな勢いで蹴破るとは思わないじゃん? 身体的には無事だけど心臓に悪い」
「それもそうだな、次からは気をつけよう」
ウチの娘たちは誰もご主人様に注意しないからね、ここは私が注意しなければ。
十代男子は異世界に来ると俺TUEEE!で無茶したがるから。
それよりも……
カン! カン! カン!
如何にも敵襲!って感じの音が聞こえる…… たぶん魔王軍関係なんだろう。
「それで彼女が?」
「あ、うん、噂の白い少女」
「……ッ」
あ~、ミトが警戒してる。
攫われて奴隷にされそうになってたから「ご主人様」って呼ばれている男にいい印象が無いんだと思う。
「魔人族の……アルビノか」
ご主人様も値踏みする様にジロジロ見ない! そりゃ凝視したくなるほどキレイなのは認めるけど。
「美しいな……」
「は?」
「ふえっ!?」
「ルビーのような真紅の瞳…… 白磁のような白くなめらかな肌…… 髪は僅かに青みを帯び神聖な輝きを放っている……」
あぁ…… ご主人様ってこういうトコあるよね…… 私も第一声で可愛いって言われたし、天然ジゴロ?
「ふ……ふぇぇ~///」
「あとそのねじれたツノもキュートだ♪」
ツノに関する形容詞が雑…… 本心なんだろうけど。
そして気に喰わないのは私に対しては「カワイイ」一言だったのに、ミトに対してはずいぶんと誉め言葉が盛られているトコロね。
なんかムカつく……
《特別解説》
『ザッハトルテ』
チョコレートケーキの王様と呼ばれているとにかく甘い菓子。
実はずっとドイツの菓子だと思ってたけど、オーストリアが発祥らしい。
ザッハ(※人名)さんが考案したトルテ(※ケーキ:ドイツ語)
『ポロロッカ』
アマゾン川で見られる川の逆流現象。別にAmazon限定ではない。




