第92話「そして1年後――」
「う…… うわあああぁぁぁああぁああッ!!!!」
気を失っていたセンセーが跳ね起きた、ビヨ~ンって擬音が付きそうな勢いだった。
「ヒッ!? ハッ!? ハッ! ハッ!」
顔の前で必死に手を振り何かを避けるような仕草をしている、たぶんG一個師団の幻でも見ているのだろう。
「センセー落ち着いてください、それは幻です」
「ハッ! ハッ! ゆ……夢? か、神楽橋飯綱!! この悪魔の子めッ!!」
ひどい言われようだな、拘束も武装解除もせずに介抱してあげたってのに。
この世界に俺以上の紳士なんて存在しないぜ?
もし俺が本当に悪魔の子だったら全裸に剥いた上に亀甲縛り状態で目を覚ましたコトだろう。
しかし未だに混乱しているご様子、冷静になってもらわないと話し合いもできない。
こんな時はやっぱり……
『女の子の陰に隠れるとは男の風上にも置けない卑怯者め! この愛と勇気の使者♪魔法少女ピュアネス☆フォーエバーが花に代わってお仕置きよ♪』
動画再生、小規模上映会をしてみる。
「あ……ああぁぁぁ……///」
自分の言動を顧みれば冷静になれるかな?
「消してーーーッ!!!!」
残念、あまり効果は無かったようだ。
仕方ないので少し待とう。
―――
「私、教師失格だ…… こんな悪魔を生み出してしまうなんて……」
前半は同意するけど、後半は同意できない、誰が悪魔だ失敬な。
「キミに一体何があったの? どうしてそこまで歪んでしまったの?」
「俺は元々こんな感じだよ」
「ウソよ! 少なくとも以前のキミはむやみやたらと敵を作るようなコトは無いチキン野郎だったハズよ!」
言いたい放題だな、もしかして仕返しのつもりか?
だいたい俺より自分の方が遥かに激変してることに気付いて無いのか? 女教師から魔法少女って歪み過ぎて作画崩壊を疑うレベルだ。
「俺がここに至るまでの経緯は…… 説明するのが面倒だから俺の思考を読んでください」
「絶対イヤッ!!」
「は?」
「キミの思考だけは絶対に! 二度と! 何があっても読まないッ!! 心の内側にGを10000匹も飼ってる奴の思考とか冗談じゃない!!」
そんなの飼ってねーよ、センセーにより効率的にダメージを与えるためにちょっと創作しただけだ。
精神汚染誘導思念は俺自身にも結構なダメージが有るんだぜ? この理不尽だらけの異世界で精神耐性が鍛えられてたから耐えられただけだ。
「はぁ…… 仕方ない」
これまで俺の身に起こった悲惨な物語を簡単に説明してやる。
………………
…………
……
「ナニソレ、人生勝ち組じゃん」
「え~~~、俺の話ちゃんと聞いてた?」
勝ち組の人生はオークにケツを狙われたりしない。
「超科学無双とか卑怯! 精神力で威力が増減する不安定な魔法で勝てるワケないじゃない!」
「センセーを追い詰めたのは科学も魔法も関係ない俺の純粋な知略ですけどね」
グロ耐性の高い奴が『精神看破』を持ってたらもっと大変だっただろう。
「これが俺の異世界冒険記です」
主に女の子ばかり集めてハーレム作ってる理由を話した。
もちろん「悲しい過去」成分を某海賊漫画並みに盛って…… これで同情しなければそいつの心は死んでる。
「え~と…… それだけ?」
「そ…… それだけ……だと!?」
間違いない、コイツの心は死んでる!
熱血教師なんてのは過去の遺物だ、ビンタなんてしようものならアッという間に炎上して無職転職だ! 教師という職業はCOOLで無ければ務まらない。
だけどさ…… 人情ってあってもいいと思うんだよね?
もしかしてセンセーの心は精神汚染誘導思念で死んでしまったのだろうか?
だとしたら悪いコトをしてしまったな、せめて冥福を祈ろう。
「南~無~」
「え? なんで拝まれてるの? 何か失礼なこと考えてるでしょ?」
「ア~メン」
「それヤメロ、私が聞きたいのはそれ以外の部分の話よ!」
「ジーザス」
「それは使いどころが違う」
おかしいな? この元教師、心が死んでるクセにCOOLさが欠片ほども感じられない。
「センセーは一体ナニが聞きたいんですか?」
「キミの話は私の認識とちょっとズレてる」
「は? ズレ?」
「私の認識だとキミはあの日、王宮騎士二人を奈落の底へ突き落して逃亡した」
確かにちょっとズレてるな、突き落としたんじゃなく一緒に落ちたんだ。
ちょっとしたズレだけど重要なポイントだ。
「その数日後にナントカ騎士長って人が帰ってきて大騒ぎ」
げ! アイツ無事だったのかよ、海の底にでも転移すればよかったのに。
「それで犯人を絞首刑にするって騒いでたらしいんだけど、当の本人が色々とヤラかしてたらしくて謹慎処分されたらしい」
はっ♪ ざまぁ! お姫様から貰ったお小遣い盗んだりするからだ。
「そして1年後―― 行方不明だったキミが現れた」
「は?」
「キミの話はせいぜいここ1ヵ月程度のコトでしょ? その前の1年間はどこで何してたの?」
「???」
1年? ナニ言ってんのこのヒト? 今日って異世界生活29日目なんですけど? まるで打ち切り漫画みたいな雑な時間の飛び方じゃないか。
しかしセンセーが嘘を吐いてるようには見えない、そもそもそんな嘘を吐く理由がない。
考えられる可能性は……
「ベルリネッタ」
「なに?」
「ケガの治療の時、俺って1年くらい昏睡状態だった?」
「そんなコト無かった」
「ですよねー」
たしか「虚境界は時間と空間を超越する道」とか言われてた……
だとすると…… 空間転移した時一緒にタイムトラベルしてたってコトか?
そんなコトがあり得るのだろうか?
…………
十分あり得るな、異世界転移なんてものがあるんだ、ちょっとくらい時間移動したって大して驚かない。
むしろ納得がいくってものだ、スーパーペガサスが僅か10日程度でチャラさの限界を突破したと考えるより、1年かけてゆっくりチャラくなったと考える方が自然だ。
そっか~…… あの金髪ロン毛、ヅラじゃなく地毛だったのか~。
あのDT魔法使いのロン毛も地毛だったんだ~。
センセーの転職もカッとなってやったワケじゃなく、思い悩んだ末に魔法少女に行きついたのか~。
まぁだからと言って何が変わるというワケでも無いんだよな、これが普通の異世界モノなら100年1000年経っていて魔法技術が衰退して主人公が無双する展開だ。
元々魔法の使えない俺には関係ない話だ。
―――
この1年のコトはありのままを話した。
タイムトラベルなんて空想上の出来事をセンセーはアッサリ受け入れた、さすが俺より異世界歴が1年長いベテランなだけはある。
お陰でようやく落ち着きを取り戻してくれた、これでようやく尋問できる。
ちなみに尋問は俺とベルリネッタの二人で行う、他の子はセンセーに近づきたがらない、心の声を暴露されたら嫌だからね。
「では聞かせてもらいましょうか、センセーが英雄候補を辞めて森の中で盗賊団の首領なんてしてた理由を」
「それは…… 騙されていたからよ」
「騙されていた?」
「例え魔王を倒しても私たちは元の世界へなんて帰れない! みんな騙されてたのよッ! 王宮にいた兵士も大臣も王様さえも全て判った上で私たちを騙していたのよッ!!」
…………
「なにを今更、最初に話を聞いた時点で少しも疑わなかったんですか?」
「え?」
帰還できないだろうな……とは思ってた、もちろん証拠がない以上帰還の可能性はゼロではないが、ま、無理だろーな……って。
少なくとも「魔力を高めれば帰還できる」ってのは胡散臭過ぎだ、魔王退治させる気満々って感じの言い回しだ。
「だから英雄候補を辞めたんですか?」
「え、えぇ…… あの国の男はロクなのが居なかったから、初対面でヒトのコト値踏みするような男ばっかり……」
それはあの国に限った話じゃ無いと思うけど……
「そんな男たちが女性を食い物にしているのが許せなかった、だから虐げられてる奴隷女性を救うために……」
「愛と勇気の魔法少女に転職した……と」
「ッ///」
志は立派だと思うけど20代後半でそのチョイスは間違ってたとしか言えない。
もっと他に何かなかったの? 例えばほら…… 女弁護士とか女警察官とか…… あれ? 魔法少女が異世界に一番合ってる?
「理由は判りました、でも目的のためとはいえ手段は選ばなきゃ、普通に手配されてますからね」
「え~と…… 神楽橋クン? まさかとは思うけど私たちのコト……」
「当然ギルドに突き出します、盗賊団を放置するワケにはいかないから」
「私とファン達をブタ箱行きにしようっていうの!」
ファン…… というより大きなお友達だったが気が……うん、文字通りの意味でブタ箱がお似合いだ。
「まぁセンセーのコトは見逃してあげますよ、昔のよしみで」
「私たちは悪いコトなんてしてない!!」
「だから奴隷を奪うのは犯罪なんですって」
それが許されるならわざわざ大会に出て優勝なんかせずシエルを攫って逃げたっつーの。
1年異世界で暮らすと倫理感も変わってしまうのだろうか? センセーが聞き分けの無い子になってしまった。
「えーと…… ちょっと待って! 神楽橋クン、キミは魔無を探してるのよね?」
「それがなにか?」
「魔無の情報を私たちが提供できるとしたら?」
!?
「魔無の…… 情報?」
「えぇ、それを提供するわ、ただしその見返りとして…… 判ってるわよね?」
自分とファンを見逃せ……と。
果たして信用できるのだろうか? 教師から魔法少女へ転職するような脳の蕩けた女の戯言を?
…………
だがあり得ない話じゃ無い、女性奴隷解放を目指してきたフラワーガーデンなら女性魔無の情報を持っていても不思議じゃない。
「いいでしょう、それが事実なら反魔力同盟にとって最優先事項だ、盗賊の賞金なんかよりずっと……」
「ふふふ…… 契約成立……ね?」
な~んか教師やってた頃より生き生きしてる気がする。
「親衛隊! 扉を開けなさい!!」
「「「オッケーボス!!」」」
「ボスって呼ぶな!」
「「「イエス! ユア! ピュアエバ!」」」
親衛隊とかいるんだ…… 知らなかったけど教師ってストレスたまる仕事だったんだ……
お大事に……
ゴゴォン―――
親衛隊が花畑の一部を持ち上げて動かすと地下への階段が現れた。
本当にココがアジトだったのか。
「こっちよ、ついてきなさい」
女教師のご自宅訪問……
感動的なシチュエーションなのに何も感じないのは何故だろう?
《特別解説》
『悲しい過去』
近年、敵に付与されることの多い属性。
漫画だと余白がベタで塗りつぶされている表現が「悲しい過去」語りの合図になっていたりする。(※例外アリ)
『技術衰退』
何らかの理由で未来へ移動した主人公が巻き込まれるトラブルの一つ。
平和過ぎて技術が廃れたり、破局的な戦争で技術が失われたりする、現代より進歩しているコトはほぼ無い。
ちなみに古代文明設定にも技術衰退が100%起こっている。




