第88話「チューリップ柄のエプロン」
戸塚(仮)からニホンバシのルート上には大きな森がある。
いかにも盗賊が好きそうな地形だ。地元では「ブリガンドの森」と呼ばれているらしい、何の捻りもナイ。
街を出てから急に盗賊の収穫量が減った、というか全然生えなくなった、きっとブリガンドの森に群生地でもあるのだろう。
「ご主人様、ホントにこの森通るの? 道も草ボーボーだし、見通しも悪いんだけど……」
「マップを見れば迷うこともないだろ」
「そりゃそうだけど、このナビ、更新されてるの?」
このエアカーにはなんとナビが搭載されているのだ! もっとも交差点とかほとんど無いけどね。
地形図自体は1000年前のものだけど、《監視機》でリアルタイム更新してるから大丈夫だろ。
ピ!
ん? ベルリネッタがなにか受信した音が……
「森の中に複数の汚染体……確認、距離を保ちこちらを観察している……」
「襲い掛かってはこないんだな?」
「…………今のところは」
「なら放っておいていい」
イチゴなら一粒ずつ丁寧に収穫するところだけど、雑草なんかまとめて刈ればいい。
「あれ?」
「どうした?」
「ナビだとこっちに道があるハズなんだけど…… 藪で隠れちゃってるのかな?」
隠されたルート…… 立入禁止じゃなく隠されてるところがいいね、隠すってコトは当然理由があるハズだ、ダンジョンだったら宝物庫だったり抜け道だったり。
「よし、そっち行ってみよう」
「も~、男の子ってそういうの好きよね」
あぁ大好きさ、秘密を暴くのが。
―――
森の中ではさすがに今までのような速度では進めない、かなりの低速走行になるのは仕方ないことだ。
普段通りのスピードで進みたかったら森を飛び越えろって話だ…… それじゃ情緒がない。
隠しルートに入って約1時間、急に森が開けた。
「わっ!? スゴイ! ご主人様見て見て! すっごいヨ!」
「一体何が……おぉっ!?」
森の中に突然美しい花畑が現れた。
広さは学校のグラウンド程もある、そんな広大な敷地一面に色とりどりの花々が咲き誇っていた。
「す……っごい!」
「せっかくだからお昼はココで頂きましょう」
「ハヤタローご~♪」
「オン!」
みんな勝手に降りて行ってしまった…… まぁいいか。
「ブリガンドの森の中に花畑……」
「どうした? シエル行かないのか?」
「主さま…… 主さまは『フラワーガーデン』という言葉に聞き覚えはありませんか?」
「フラワーガーデン?」
「はい、半年ほど前から頻繁に聞こえてくるようになった盗賊団の名前です」
盗賊団の名前がフラワーガーデン…… 凄いセンスしてるな。
「アヴァロニア大陸南部のこの辺りを中心に勢力を広げている盗賊団で、襲うのはあまり評判のよくない冒険者や商人、時々貴族なども襲撃されてるようです」
「義賊って奴か?」
「それは何とも…… 襲われたことで不正が発覚したケースもあるとか、ただ活動期間がまだ短いのでたまたまの可能性もあります」
「確かに半年程度じゃな……」
「そのフラワーガーデンのアジトは見つかっていないのですが、一説にはブリガンドの森にあるのではないか?……と言われています」
なるほど…… 藪で隠されていた秘密のルート、余計な薮を突いてしまったかもしれないな。
…………
いや、待て待て、いくら盗賊団の名前がフラワーガーデンだからと言って、強面の盗賊たちがこの花畑の世話をしている姿が全く想像できない。
あ、いや…… そうでも無いか? 漫画だと極悪面のカワイイ系ショップ店員って割と見た気がする……
「お恥ずかしい話なのですが…… ウチの門下生も盗賊団首領の討伐に出向き返り討ちに遭ってるんです」
シエルのところの門下生がどれほどの強さだったのかは判らない、だがいきなり首領の討伐に行くくらいなんだからかなりの実力があったのだろう。
それを返り討ち……か。
勇者くらいの強さなのだろうか? 全然強そうに感じないけど。
「ここがそのフラワーガーデンの本拠地だと?」
「あくまでも可能性の話ですが……」
ふむ…… ま、問題ないだろ? こっちにはベルリネッタがいる。
それに約12%人間辞めてる俺も盗賊如きに後れを取らない程度の実力はあるはずだ。
「少し調べてみよう、新進気鋭の盗賊団を壊滅させられるなら悪くはない」
「…………」
「不安か?」
「いえ…… ただ首領にだけは注意してください、門下生の話ではまるで未来でも見通されてるかのような動きだったと……」
未来予知? 異能魔法……か? もしホントに未来予知が可能ならきっと出てこない。
半径1kmを吹っ飛ばす攻撃とか、死ぬまで相手を追い回す追尾攻撃をされたらたとえ未来が見えても避けられない。
そしてベルリネッタにはそういった極悪兵器が山ほど搭載されているハズだ。
俺ならそんな奴らに関わらずに逃げ出すね。
―――
「おにいちゃん遅~い」
「悪い悪い…… ん? 土が柔らかい…… ちゃんと耕されてる、明らかに人の手が入ってるな」
「イヅナ様は園芸に詳しいんですか?」
「詳しいって程じゃないけど……まぁこの程度はな」
花に統一性は無いが雑草が少ない、こんな森の中にこんな大規模な花畑を作るのは結構大変だと思う。
普通に考えれば盗賊がこんなメルヘンチックな作業をやってるとは思えない、アイツらは旅人を襲い金や食料、酒を奪い、ついでに美女がいたらお持ち帰りして乱交パーティー&酒盛りする様なゴブリン的な生態の人種だ。
それなら近所の村人が養蜂でもやってる可能性の方が高い、ちょっと大規模すぎるがな。
まぁいい、予知能力者との闘いなんて負け確定のイベントバトルだが、もし襲い掛かってくるなら自分の悲惨な未来を予知できていないという証明になる。
つまり何かアクションがないか待つだけ。
当初の予定通りピクニックシート広げてお弁当だ♪ と言うワケでキララ君、今からマッハでお弁当作って♪
「おぅゴラァァァアアア!!!!」
? なんか遠くから獣の鳴き声が?
遠くの方からクマみたいなのが2匹…… アレ? ヒトか?
「てめぇら誰の断りを得てこのフラワーガーデン本拠地に立ち入ってんだゴルァアッ!!」
…………
「シエル……」
「えぇ…… どうやらここがフラワーガーデンの本拠地らしいです……」
盗賊団が開口一番自分たちの本拠地だって教えてくれた。
「いいかてめぇら!! そこを一歩も動くんじゃねーぞッ!! もしお花を踏んだりしたらぶっ殺すぞッ!! ボスがマジギレしたら死人が出んだからなッ!!」
ギャンギャン大騒ぎしながらゆっくり近づいてくる大男二人、確かにお花を踏まないように気を付けてるようだ。
どうやらこの花畑も首領の趣味らしい、そして花を傷つけたら血の制裁を受けるらしい……
知らんがな
「ウチのボスはマジでおっかねーんだからな! 精神に傷を負いたくなければ下手なことはすんじゃねーぞッ!!」
「ひっ……」
「ご……ご主人しゃま……」
「ひぅっ お……おにいちゃ……」
あのヤロー共! うちの子たちを怯えさせやがったな!! ボスより先に俺がお前たちを物理的に粉々に砕いてやろうか!?
しかし怯えるのも仕方がないルックスしてるな、2人とも2m近い巨漢でやたら毛深い、そしてサイズが合って無いけどちょっと可愛いチューリップ柄のエプロンを付けてる、そのミスマッチが異様さを増幅している。
あ、ちなみにベルリネッタとシエルは無表情だ、こういうところは年の功って感じだな、まったく動じない。
「なんだ全員女か」
おい! いくら俺が美少年だからって、そこまで華奢じゃないぞ!
あとキララ、笑うな!
「ちっ! 運が良かったな、ボスは男には容赦ないが女には甘いんだ」
「オイよく見ろ、そいつは男だぞ?」
「はぁ? この細いのが男? ピョロ草みてーじゃねーか」
なんだよピョロ草って? 異世界版のモヤシか何かか?
あとキララ、笑うな!
「しかも見ろ、女2人は奴隷だぞ?」
「あ~、これはアウトだな、クックックッ」
?
「何がマズいのか判らないって顔だな? じゃあ教えてやる。ウチのボスは女を奴隷にして虐げる男が死ぬほど嫌いなんだよ」
盗賊の分際でずいぶん紳士的じゃねーか。
「そしてそんな男の尊厳や生殖器官を徹底的にぶっ壊すのに至上の喜びを感じてるんだよ」
前言撤回! 悪魔じゃねーか!
「そんな人がボスやってるもんだから俺たちは盗賊なのに女に手を出せない、だが……」
「あぁ…… 女と見間違うほど華奢で可愛らしい顔をしているが…… コイツは男だ……」
え゛…… ちょ……ちょっと待って! 盗賊さん気をしっかり持て! なんで俺を見てちょっと鼻息荒くして頬を赤く染めてイヤラシイ笑みを浮かべてるんだよ!
まさか…… 巨乳エルフがいるのにそっちには目もくれずに僕に乱暴する気!? 薄い本みたいに!!
「あぁ~残念、美少年ネコはイイんだけどタチはもっと美青年がよかったなぁ~」
黙れ腐女子!!
《特別解説》
『極悪面のカワイイ系ショップ店員』
ギャップを狙ったキャラ。「可愛い妹」や「オタクにやさしいギャル」みたいに現実には存在しない。
夢見るな!




