第87話「異世界転移で貰えるハズだったチート能力が遅れてやって来た」
「87.75%人間」
つい先日まで俺は間違いなく純粋な人間だった…… だがいつの間にか自分が人間だと胸を張って言えなくなっていた。
自分が得体の知れないバケモノになっていく恐怖…… 俺はこの先どうなってしまうのか? この先も人として生きていっていいのか?
当事者以外には決して理解できない苦悩が身を焦がす感覚……
……とかは特に感じない、だって今更じゃん。
大体この世界って純粋な人間ってどれだけ存在するの?
耳長族、獣人族、人魚族、炭鉱族、人間に近いけど人間じゃない人種が多く暮らしている。
人間族だってマナウイルスに感染して魔法とか使っているのが普通の人間といえるのだろうか? しかも病気が進行するとバケモノに転生するんだぜ?
そもそもここは別の惑星だ、遺伝子的に見ても地球人と100%同じ人類など初めから存在しないだろう。
唯一例外があるとすれば白川先輩だ、アノ人だけはかつての俺と同じく純粋な人間……地球人だった。
陰キャ系主人公ならきっとここで思い悩んでナノマシンの力を使わないようにする……とかのイベントが発生するだろう。
ウジウジ悩んだり……逃亡したり…… 結局何の解決にもならないヤツ。
だが地球へ帰れないことが確定している俺には大した問題じゃない。
端っから俺の周りには亜人しかいないんだ、そこに新種が混ざったようなものだ。
「本来、珪素ベースのナノマシンと炭素ベースの人間は共生できない…… マスターは特別」
特別といわれると悪い気はしない。
俺も大概チョロいな。
「マスターは元々未発見だったマナウイルス非活性因子を持ってる…… それこそが珪素生命を従わせるファクターの可能性……ある」
う~ん…… 何か重要な話をしてるみたいだけど、元・平凡な高校生の俺にはよく判らん。
おっと、俺はもう「どこにでもいる平凡な高校生」じゃないぜ? なにせ約12%人間辞めてるからね♪
はぁ~…… まぁね、正直に言うとちょっとおかしいな?って前から思ってたんだよね。
パワードスーツ使ってパワー・スピードのフィジカル面がアップするのはいい、でも視覚・聴覚、反射神経とかのセンス面がアップするのって理解できないじゃん?
思考加速とかもアドヴァンスドサポートじゃなくこっちが原因だったんじゃないだろうか? ナノマシンと融合して脳の演算能力が拡張された……とか。
「ベルリネッタ」
「なに?」
「ナノマシンの分離は可能か?」
「ムリ、融合、変質、進化を繰り返していてマスターの細胞の一部になってる」
「いつか進化したナノマシンが自我を得て俺の体を乗っ取るとかは?」
「ナノマシンはプログラムで動く…… 自我は無い」
「だがベルリネッタには自我があるだろ?」
「エクスマキナの自我は333の特殊AIと1つの統括AIによる合議制超高度疑似人格形成ユニット…… それがコアにある…… マスターにはコアは無い、ナノマシンには特殊AIは搭載されても疑似人格形成ユニットは搭載できないよう設計されてる」
だったら安心♪……と思うほど俺の頭はお花畑じゃない。
一方的に与えられる情報を鵜呑みにしてたら、気付いた時には左腕がサイコガンに改造されているかもしれない。
だからと言って今更ベルリネッタと決別するコトなんてできない……いや? オーパーツ無しでも今までと同じ力が出せるなら一人でもやっていけるか?
うん、ムリだな、何かあった時に俺じゃ対処できない。例えばフリーズしたらどうなるんだよ? 誰か電源ボタン長押ししてくれるのか? そもそも俺の電源ボタンドコよ?
今は様子見だな……
こういうのを「重要なコトから目を逸らしてる」って言うのだろう…… 俺の得意技だ。
「質問おわり?」
「あぁ、聞きたいコトは山ほどあるけど…… 今は現状を飲み込むのに時間が必要だ」
「そう……」
重要なのは考え方を変えるコトだ。
こう思えばいい…… 「異世界転移で貰えるハズだったチート能力が遅れてやって来た」と。
もっともその遅れのせいでこっちは多大な迷惑を被った、つまり何が云いたいのかと言うと……
詫び石寄こせ。
―――
――
―
異世界生活29日目……
温泉で(俺以外が)たっぷり静養を取ったので再び東を目指して旅を再開する。
今度はちゃんと休憩をはさみながら、そうしないとキララが文句を言うからな。
サービスエリア毎に一服する感じだ、パーキングエリアは緊急時以外スルーする。
「ご主人様~、また出たぁ~」
「ハァ…… またか……」
キララが進行方向に盗賊を発見、温泉を出てからずっとこんな感じだ。
「ユリア、頼む」
「は~い」
最初はライフルで対処してたけど、数が多いので今は屋根の上にガトリングガンを設置して撃ちまくってる。
ダラララララララッ!!
『ギャーーー!!』
ちなみに皆殺しにしているワケではない、真空振動弾という物理攻撃力の無い弾を使ってるので相手は痺れるだけだ。
この世界の法律だと盗賊は殺しても問題ないみたいなんだけど、ユリアはあまり人を殺したくないみたいだからな。
まぁその気持ちは判る、俺だって裸で襲い掛かって来たガチムチを一輪刺しの刑に処すに留めたから。
「ベルリネッタ、シエル、手伝ってくれ」
「イエスマスター」
「かしこまりました」
痺れて動けなくなった盗賊を回収する、ホントは汚くて触りたくないんだがギルドに持ってくとそこそこの値段で売れる。
より正確に言うと懸賞金が貰えるんだ。
ドサッ ドサッ
牽引トレーラーがもう一杯だ、これ以上出てきたらロープで縛って引きずってくからな。
あ、ちなみにエアカーの後ろから追いかけてくる奴は回収せずに放置してる、だって面倒だから……
―――
近くの街の衛兵詰め所で盗賊の受け渡し、この街、冒険者ギルドが簡易出張所しかなくて受け取り拒否された。
手続きを秘書のユリア君に丸投げして喫茶店で一服。
「お待たせしました」
「おう、お疲れ様」
「報奨金は99,000ディルです」
「……なんか…… 少なくね?」
「この辺は相場よりだいぶ少ないみたいですね、衛兵の方に伺ったのですが最近は盗賊の捕縛が多くて牢屋を2度増設したそうです」
なるほど、大豊作なのか、そりゃ安くもなるよな…… 山盛りの盗賊を卸してもこの値段とは……
この先も盗賊大安売りしてるなら放置しちまうか? 収穫するの大変だし、大した稼ぎにもならないし……
それとも全自動盗賊収穫機みたいなの無いかな?
…………
探せばダークウィードの展示品の中にソレっぽいモノが在りそうだな……
「盗賊が多いってコトはまだしばらくはこんな状況が続くんだよな?」
「恐らくは……」
盗賊の目的って俺たちなんだよなぁ……
地元民もいるだろうけど大半が出稼ぎ盗賊だろう、つまり俺たちが移動すればハーメルンの笛吹きみたいに大移動することになる。
だったら卸値が高く衛兵の多い大きな街の近くまでおびき寄せた方が何かと楽だな。
「この先に大きな街はあるかな?」
「このまま進むとニホンバシですね」
「は? え? 日本橋?」
くっ! 盗賊より気になる単語が出てきた。
訓練として持たせていたスマホを見ながらシエルがつぶやいたのだ。
お前どの地図アプリ開いてる? もしかしてグ〇グル開いてない? もしシエルの言うことが正しいのなら今は戸塚中継所あたりだろうか?
「ニホンバシとは大渓谷に唯一架けられた橋を中心とした国境の街です。およそ100年前にやって来た英雄候補が作った街ですね」
「あぁ、やっぱり英雄候補か」
「本来なら私たちは避けて通るべきルートです」
「? どうして?」
「領主の元英雄候補サト=リヨタは少々性格に難があるそうですので……」
なんか日本人っぽくない名前だな、たぶん佐藤だと思うけど……
「そのサトー何某さんはまだ生きてるの?」
「らしいです」
100年前の英雄候補がまだ生きてるとは…… やはり異能魔法か? 若返ったりできる感じの。
「俺達が行くと何が不都合なんだ?」
「通行料が高く、対価を奴隷で求めるコトがあるそうです」
「奴隷?」
「若くて美しい、あるいは珍しい奴隷ですね」
なるほど、ウチの奴隷はキララとシエルの二人だが、どっちも若く美しく珍しい…… 少なくとも見た目はな。
「だったら無理にニホンバシを通るコトも無いだろ? 他のルートは?」
「南北に迂回するルートはあるのですが…… 南は海まで出て船に乗るため時間も料金も大幅に増えることになります。
北周りのルートはわたくしたちでは通れません」
「通れない理由は?」
「アヴァロニア王国の領土になってしまうんです、あの国に亜人は入れませんから」
あぁ、そんな設定あったな。
俺もあの国には極力近づきたくない、大丈夫だとは思うけど指名手配されてたら困る。
そもそも俺たちに道や橋は関係ない、エアカーなら普通に飛び越せる、渓谷を飛び越してはいけませんって決まりでもない限り。
これで盗賊を川に沈めて一網打尽にできるな。
《特別解説》
『どこにでもいる平凡な高校生』
異世界モノの高校生主人公の8割くらいはコレ。
ただし異世界に来てからもずっとこのレベルに留まる奴はいない。この称号を持っているとチートが貰えるチート能力引換券。
『サイコガン』
誰もが憧れる漢の必殺兵器、左腕の義手の中に仕込まれている。
サイコガン使用時に義手はどこかに消える、たぶんアイテムボックスにでも収納してるのだろう。




