第85話「混浴」
盤面世界にはギルドと呼ばれている組織がいくつも存在している。
もっとも有名なのが「冒険者ギルド」で世界中に支部がある。
他にも「商業ギルド」や「剣術ギルド」「魔術ギルド」などなど、珍しいモノだと「転移者ギルド」「転生者ギルド」なんてのもある、規模に差はあれどその種類は多岐にわたる。
大体は人々の生活に根差したものなのだが、中には闇に属する非合法ギルドも存在する。
ここは暗殺業や盗賊業を生業とする者が集う闇ギルドの一つ「深淵」の会議室……
所属する者たちは時折り集まっては情報共有や仕事の依頼の割り振りを話し合う、今日は全10人中8人の幹部が集まっていた。
「時間だ……」
「まだ席が二つ開いているようだが?」
会議室と言っても面と面を突き合わせて話し合いをする訳ではない、彼らは全員何かしらの罪を犯している、例え仲間のギルド員であっても顔を見られるわけにはいかない。
そのため光が一切差し込まない暗い部屋で会議を行う。
「不参加はいつもの二人だ、「シャドウリッター」と「フラワーガーデン」」
「「シャドウリッター」は昔からだが新参者の「フラワーガーデン」は何故来ない? 我々「深淵」を軽んじてるのではないか?」
「はっ、アイツがここに来ないのはむしろ望ましいんじゃないか? 少なくとも俺はアイツに会いたくないぜ」
「…………ちっ!」
「居ない者のコトはいい、それより会議を始める」
各自の席に置かれていた書類には3人の男女が描かれている。
「本日の議題は上級冒険者パーティー《反魔力同盟》についてだ」
「反魔力同盟?」
「知ってる…… 先日の剣聖祭で優勝した奴らだな」
「そうだ…… だがそれだけではない、パーティー結成直後に難攻不落の第1世界樹迷宮49階層を突破、その後もユグドラシルに侵攻した魔王軍・魔男爵ギデオンと互角に渡り合い、ダークウィードを襲った竜の群れを撃退、そして剣聖祭で全勝優勝」
「にわかには信じがたい功績だな」
「そう…… これらは全て魔無によって成し遂げられた功績だ」
ザワザワ
「その噂は聞いたことがあるが本当に魔無なのか?」
この世界において魔無は絶対的弱者、平均的な魔法使いと比べても戦闘力はゾウとアリほども違う。
「少なくとも冒険者登録している3人とタカナシ・シエルに関しては間違いないだろう」
「魔無を保護して回ってるつもりか? まぁ魔力の無い奴隷など愛玩以外に価値はないが……」
「そんな反魔力同盟に関する依頼が複数来ている、そのほとんどが「オーパーツを奪取せよ」というものだ。少数だが暗殺依頼も来ている」
「オーパーツ…… なるほど、確かに性能次第では信じられない功績を上げたコトにも説明がつく、しかしその依頼を受けるのか?」
「ふっ…… 何を馬鹿な、魔無が特級冒険者を上回る功績を上げられるオーパーツだぞ? それをわざわざ他所へ流すより自分たちで有効活用するべきだ」
「はっ! そうこなけりゃな!」
「ただ一つ、問題がある」
「あ?」
「彼らが所持すると思われるオーパーツの中に《次元収納》に酷似した機能の物がある」
「収納機能……か」
「殺してしまえば収納物の取り出しができなくなる可能性が高い、そして生け捕りにしようにも相手は複数のオーパーツで武装している」
「それは厄介だな……」
「オーパーツは形状から機能を推理することが難しい、しかしただ一人だけオーパーツをずっと身に付けていると思われる人物か居る」
「ほぅ?」
「リーダーのカグラバシ・イヅナ、ヤツが常に身に付けている黒いコート、あれはオーパーツで間違いないだろう、機能は身体能力の超強化だと思われる」
「なるほど…… しかし身体能力を超強化している奴から衣服を奪うのは無理だろ? 時間が掛かれば他のオーパーツを出されてお終いだ」
「だったら自分から脱いでもらえばいい」
「なに?」
「反魔力同盟はデルタフル火山地帯方面へ向かっている」
「なるほど…… 誰かそっち方面へすぐに行ける手駒はいるか?」
「それならウチにうってつけの男がいる」
―――
――
―
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
地鳴りのような音があたりに鳴り響いている、それはさながら強大な敵キャラが出現した時のサウンドエフェクトのようだ。
そして眼下には赤く燃え滾る溶岩…… 気分はボスバトルって感じだ。
「実に雄大な景色だ……」
「わおん」
秘湯を求めて山奥までやってきた、温泉から少し行くと火山の噴火口が見れると聞いて先に来てみた。
だが俺のつぶやきに応えてくれるのは機械仕掛けのお犬様だけ…… なぜか損した気分になる。
相手が女の子ならこんな気持ちにはならなかっただろう。
………… 空しい。
さっさと用事を済ませて温泉行こう。
出掛けにシエルが嫌なフラグを立ててくれたからな…… なんでも……
『この山での単独行動は危険ですので十分お気を付けください』
『え? 魔物とか出るの?』
普通火山に生物とか住まないだろ? 特に大型生物は、いたとしても微生物くらいだろ? 海底火山は色々いるみたいだけど……
でもゲームだと当たり前のように火山に大型生物が住んでるんだよな、むしろモンスターのいない火山なんて見たことないや。
『魔物……ではなく、龍が現れることがあるのです』
『……龍?』
『六大厄災の一つ『火災厄龍ヴォル・ケル・ノス』、溶岩の中を泳ぎ回り世界中の火山にある日突然現れるそうです、その時火山は破局噴火を起こすらしいですね、かつていくつもの文明を滅ぼしたと言われています』
………… 何なのこの世界? 温泉入るのも命懸けなの?
そもそも溶岩を泳ぐって無理だろ? 砂漠を泳ぐのよりあり得ない、この世界の溶岩が熱湯コマーシャルくらいの温度なら判らなくもないが……
『まぁ火山は世界に何百カ所とありますし、そもそもここ数百年目撃例がありません、すでに寿命で死んだという説もあります』
『それは…… ナイな』
勝手なイメージだけど龍種ってきっと不老不死だぜ? 不老不死じゃなかったとしてもそれに近い寿命はある気がする。
『ちなみに…… その龍が現れる時になにか予兆とかはないのか?』
『伝説では噴火口から龍の鳴き声が聞こえて、100km先まで聞こえたそうだ、そしてその声の届いた範囲は破局噴火で滅びるらしいです』
………………
…………
……
なんてやり取りがあった、じゃあ誰がその伝説を伝えたんだよ? 所詮伝説、いい加減だな。
今のところ溶岩風呂に入ってる龍種の姿は見えない、というか、熱気がスゴイ、やっぱり熱湯なんてレベルじゃないなコレ……
さっさと行こう、こんなところでジッとしてたらホントにフラグ回収しそうでヤダ。
―――
早太郎が大ジャンプで山を下るモノだからちびりそうになった。
火山特有の木々が全く生えていないゴツゴツの岩肌の風景の中にこれまた純和風の簡素な建物がある。
あれが秘湯だ。
期待なんかしてない、だが異世界と混浴は切っても切れない関係にある。
日本では100万分の1くらいの確率でしか起こらない混浴イベントも、異世界では割と高確率で起こる。
主人公の混浴遭遇率は驚きの90%!(※適当)
期待なんかしてない……が、心のどこかで期待してしまっている自分がいる。
もしかして……今度こそ……って。
いざ勝負!
キィィィーーー
準備を済ませ浴場への木戸を開けると岩場にお湯が溜まっただけのような温泉があった、こんな感じの温泉テレビで見た気がする。
見える範囲には誰も入ってないが岩場の陰とかに誰かいるかも…… ちなみに湯気で見えない場合は動物率が高い。
…………
「誰もいねーじゃねーか」
そりゃ対魔物戦付き登山が必要な温泉なんかに入りに来るモノ好きなんて滅多に居ないよな。
既に薄暗くなってる、今からじゃ真っ暗な山道を下山しなきゃならない、尚のコト人なんかいるワケない。
まぁいい、人も動物も魔物も入ってない湯ならきっと綺麗だろう、ゆっくり堪能させてもらうとするか。
帰りは真っ暗になるだろうけど早太郎がいるから安心だ、きっと目が光るライト機能とか付いてるさ。
おっと、入る前に松明に火を灯しておこう、松明は元々設置されてるけど人がいないからセルフで着火しないといけない。
「おぉ」
何かいい雰囲気だ、一気に高級温泉っぽくなった。
それじゃあ……
「ふ……ぅああぁぁぁ~~~ぁ♪」
たまらん…… 思ったよりぬるめだけどコレは長風呂したくなる……
「はぁぁぁ~~~……」
日々の疲れが湯に溶けだしていくようだ…… 普段からそんなに疲れを溜め込んで無いけど。
きっとここまで自力で登ってきたらさらに気持ち良かったんだろう、面倒だから絶対お断りだけどね。
カタン
? 何か脱衣所の方から物音が聞こえた? まさか……?
ギシ…… パサ……
! 誰かいる! こんな僻地の秘湯に俺以外の誰かがいる!
なんだよ、神サマもたまには粋なコトしてくれるじゃねーか♪
大丈夫大丈夫♪ 期待なんかしてない、俺の脱いだ服が置いてあるんだ、人がいるコトは向こうも承知の上だ、きっとタオルで隠して入ってくる。
だから遠慮なしでガン見していよう、どうせ薄暗いんだ、俺の目がギラついてても相手には判らないさ。
キィィィーーー
「お、こんな僻地に俺以外の客がいるとは驚きだな」
…………
入ってきたのは筋骨隆々の大男…… しかもノーガード…… 視線が下方向へ行ってたからガン見してしまった。
その小脇に抱えたタオル、持ってないで腰に巻くなりなんなりしろよ!
下等生物のゴブリンやオークですら一応隠してるってのに!
ざぶっ
「ふ……あぁあ~~~~~、生き返るなぁ~~~♪」
予想通りいきなり湯舟に入ってきた、せめて股間くらい洗ってからにしてくれ。
「お一人ですか?」
「え? あぁ、うん……」
話しかけてくるなよ…… 俺はコミュ障じゃないけど全裸のガチムチと親しくなりたくは無い。
「お仲間は?」
「………… さあ? 今ごろ別の風呂に入ってるじゃねーの?」
なんて残酷な質問をしてくるんだ、俺がボッチだったらどうするつもりだったんだよ?
「しかし単独行動は危機感が無さ過ぎるんじゃないか? カグラバシ・イヅナ」
「!?」
バシャッ!!
いきなり名前を呼ばれて前を隠すのも忘れて距離を取る。
しかしガチムチ男はそんな俺を横目で眺めながら静かに語ってくる…… おい! どこ見てんだ! その目線ヤメロ!!
「お前は今色んな奴らに目を付けられてるぞ、暗殺依頼なんかもあったからな」
暗殺…… まぁ心当たりはある。
「魔法も使えないくせに命綱のオーパーツから手を放すとは……な」
し……しまったぁぁぁ! 早太郎をハウスしちまったぁぁぁ! 使ったらお片付けするキレイ好きが災いしたぁぁぁ!
《特別解説》
『混浴』
男女が一緒に風呂へ入る行為。
異世界とエロ漫画界では定番中の定番イベント。




