第83話「汚い幕切れ」
「主さまお待ちを、これ以上主さまを危険にさらすワケにはいきません、こんな時のための戦闘奴隷なのですから」
これが本来あるべき奴隷の姿か…… ぶーぶー文句たれる同僚のキララに爪の垢を煎じて飲ませてください。
「主さま?」
おっと、今はそれどころじゃなかったな。
「事態は既に危機的状況だ、ならば可能な限り安全性を保ったうえでこの状況を打破する行動をとるべきだ、つまり一人よりみんなで……だ」
「主……さま」
殲滅するだけならベルリネッタ一人でお釣りがくるレベルだろうけど、相手を殺さずに……というなら分業したほうがいいだろう。
またいくらシエルがエルエネミス流の達人だとしても魔無だ、身体強化魔法とか使えないから敵に囲まれるとマズいだろう。
「そうするとシエルに武器を持たせないといけないんだが…… 剣でいいんだよな?」
「槍や短剣、刃の付いた武器なら一通り行けますが一番は剣……です」
だったら俺の上泉伊勢守レプリカでいいか、もう使わないし……
「マスター…… これ……」
「ん?」
ベルリネッタが30cmくらいの棒を差し出してきた、まさかコレって……!
「三式一型粒子加速系近接兵装・零元素反応刃」
ライト○ーバー!! ヤバい俺が欲しい! 上泉伊勢守レプリカとトレードしたい!
でもダメだろうな、俺ライト○ーバー免許とか持ってないし……
「これ……は?」
シエルが不思議そうに零元素反応刃の柄を眺めてる、まぁ地球人じゃないとこれが剣だとは思わないだろうな。
「ここのトリガーを引いてスライドさせると……」
ヴゥォン―――
青白い光の刃が形成される、音もアノ音にそっくりだ。
「すごい…… 聖剣みたい……」
聖剣? 光の剣ってコトか? ルーファスの聖剣デュランダルは実体剣だったけど、きっと「解!」とか言うと光の剣にモードチェンジするんだろう。
「それじゃ役割分担だ、数が多い後ろはベルリネッタに任せる」
「イエスマスター」
「前方、強行突破の道を開く役目はシエルに……」
「お任せください」
「ユリアは狙撃、空船を頼む、撃墜する必要はないが追跡できない程度にダメージを与えてやれ」
「は……はい!」
「俺はエアカーの防御をする」
後で人はなるべく殺さないようにってメッセージ送っとかないとな、特にベルリネッタ、気付いたら皆殺しとか困る。
「ご主人様、わたしは?」
「え?」
キララ……? キララにできるコトって何かあるか?
「それじゃ暖機運転でもしてて」
「だ……暖機運転て…… アレって機械を暖める行為であって運転するワケじゃ無いんですけど、そもそも機械はとっくに暖まってるし……」
だって他に思いつかないし……
「おにいちゃん♪ シャロは?」
「え?」
キララが余計なコト言うからシャロまで…… う~ん……
「シャロはお留守番」
「え~!」
「ただし何か危険が迫った時はキララを守ってやってくれ」
「! はーい! りょ~か~い♪」
まぁそんな機会はこないだろう、だってその為に俺がエアカーを守るんだから。
「いや、ご主人様、ちょっと待って…… 逆じゃね? 私にシャロちゃんを守れっていう場面でしょ?」
「………… 守れるのか?」
「うっ!?」
戦闘能力いらないって言い張ってたじゃねーか。
「あれ? もしかしてヤバイ? 確かに守られ系女子はヒロインポジションだけど女だらけのパーティーで戦闘力5未満ってヤバいんじゃない?」
何かブツブツ言ってるけど別に気にしなくていいと思う、漫画みたいに仲間全員に個別戦闘パートとか入るとテンポが悪くなるから。
今回の剣聖祭・決勝戦みたいに戦闘員が5人必要になる……なんてケースの方が稀だ、本来ならベルリネッタ一人で世界を終焉に導ける戦力があるんだからな。
後はオマケだ、俺を含めてね……
―――
サンルーフからエアカーの屋根の上へ出る。
ここが俺とユリアの担当エリアだな。
「それではわたくしが血路を開きます」
「え? ちょっ……」
シエルが止める間もなく行ってしまった…… 齢500を超えてなお猪突猛進とは感性若すぎだろ?
「エルエネミス流剣術・銀鶺鴒」
シュパパッ!!
「お……おぉっ!?」
あれ漫画(ギャグ寄り)で見たコトあるぞ! 剣で鎧とか服をバラバラにして真っ裸にする奴だ!
パンツだけ残してるのは武士の情けかな? そっちの方が手間が掛かるだろうに……
しかもシエルはそんな手間のかかる作業を一人も漏らさず端から全員に施している、きっとこっちに被害が及ばないようにするためだ。
王様のトコロへ突っ込んで人質にでもすればいいのに…… 真面目だなぁ。
しかしそれにしても……
「スゲー速いな……」
身体強化魔法とか使ってないのにパワードスーツ着用時の俺と大差ないスピードだ、炭鉱族って速さのステータスにマイナス補正が掛かるイメージだったんだが、そんなイメージお構いなしの超スピード……
人間って500年鍛え続ければあんな速度で動けるものなのか?
「シエルは身体能力の限界以上の力使ってる…… 普通の人間と同列に考えない方がイイ……」
「は?」
ベルリネッタが不穏な言葉を漏らす……
もし本当にシエルが限界以上の力を使ってたらこの後死ぬんじゃね?
金魚すくいの金魚じゃねーんだぞ? すくった翌日に死なれてたまるか!
「シエルの身体にはプラントコアが入ってる…… 胸の下あたり……」
「プラントコア?」
「治療用生体ナノマシンの超小型プラント…… それが体内でナノマシンを生産し続けてる……」
「は?」
「筋繊維断裂、疲労骨折、内臓過負荷、そういった限界以上の力を使った代償もナノマシンが即座に癒す…… あと細胞劣化も癒してるから歳も取らない…… 実質的には半不老不死……」
「いや…… ちょっと待て…… そんなコトあり得るのか?」
「ナノマシンと生物の融合…… 非常に珍しいケース…… 自分の知る限り全宇宙で2例目……」
そっかそっか、前例があるのか、じゃあ安心……か?
まぁ500年間無事に過ごしてきたんだ、今日明日でいきなり容体が急変するコトなんてない……よね?
話を聞いた限りでは恩恵しかないようだし無理に摘出する必要も無いか……
だがベルリネッタは半不老不死と言った…… つまり完全に不死身ってワケじゃない。
たぶん首とか斬られたら死ぬよな…… あまり自己治癒力を過信して無茶をさせないようにしないといけないな。
「それじゃマスター、こっちも処理…… 開始する」
「あぁ、くどい様だけどくれぐれも殺さないようにな?」
「……イエスマスター」
一瞬だけ間があった気がする……
「プロトアームズ《K》局地制圧兵器・無限回転式電磁加速砲・展開」
え? ここで超科学ガトリング砲? そんなので撃たれたら人間なんて粉々になるぞ?
大丈夫だよな? 信じてるからな?
「発射」
ドドドドドドドドドッ!!!!
ちょっ!? ……と?
当ててない? 地面を撃ってるのか、その着弾の衝撃で兵士たちがゴミみたいに吹き飛んでるけど、死んではいないみたいだな……
まぁいいか、向こうはこっちを殺す気で囲んでたんだ、殺されなかっただけでも有難く思って欲しいものだ。
「それじゃ私も始めます」
そう言うとユリアは空船目掛けて《電磁投射狙撃銃》を構えた。
ユリアは念を押さなくても大丈夫だと思うけど、対象が大物だからな…… 当たりどころが悪いと轟沈するかもしれんな。
「………… エイム……ショット」
ダアァァァーーーン!!
ドォォォン!!
爆発した…… 大丈夫か?
空船は黒煙を吐きながらフラフラと王都の方へ戻っていった……
谷底だから見える範囲の敵機は限られるがまだまだ多い、特に小型の空船が。
後ろはベルリネッタ、上はユリアに任せて大丈夫だな。
やはり問題は接近戦をしてる前方のシエルか…… 何かあった時はすぐに助けに入れるよう準備しておくか。
…………
見ればシエルはすでに地上戦艦の下に辿り着いてる、はえーよ……
そして兵士たちは全員パンツ一丁、一人の取りこぼしも無し……
げっ!? あそこに変態仮面みたいなパンツの履き方してる奴がいる! うわぁ……
…………
うわぁ……
―――
「よもや…… これ程とは……」
「あれ? ワシたち魔王軍と戦ってたんだっけ?」
「陛下、交渉は決裂しました、今すぐ撤退を……」
「何を言っておる! ここまでやられておめおめと引き下がれるものか!」
「いま引かなければもっと悲惨な目に遭いま……」
ズシャッ!!!!
「い……今のは……?」
「な、なんじゃぁー!?」
地上戦艦の甲板は不規則な振動を起こし、視界に映る景色がゆっくりと降りていく……
王たちがいる甲板が丸ごと斜めに切り裂かれていた。
ズ…ズ…ズ…… ズドォォォーーーン!!
「ぬおぉぉぉぉ!?!?」
「ひぃぃぃぃ!!」
甲板が崩れた衝撃で王と大臣は地面に投げ出された。
「ぐむむ…… な、何が起こったのじゃ?」
「あがが…… こ……腰が……」
ヴゥォン―――
「はっ!? シ……シエル……」
「…………」
王と大臣の前にシエルが立ち二人を見下ろしている。
「き、貴様よくもこのような仕打ちを! 500年も我が国の世話になって来たくせに情の欠片も無いのか!」
「世話? 世話をしてきたつもりだったのですか?」
「王国の剣術指南役に就けて地位と名誉を与えたであろう! 本来寿命を全う出来ないといわれる虚無級の魔無が500年も生き続けられたのは偏に我が国の庇護のおかげじゃろ!」
「それは世話をしたというのではなく利用したというのですよ」
「むぐっ! お、同じコトじゃ!」
「そもそも…… 陛下、先代、先々代と3代に渡って違法な奴隷契約で縛り続けてきて、地位と名誉と言いながらただ役職名を与えただけ、給金も自由も一切無し。
そして何より王家は鶫様の遺言を無視した…… そんな相手に掛ける情など持ち合わせておりません」
「ぐぬぬ…… 屁理屈ばかり捏ねおって……」
そもそも奴隷に説得は無意味、すでに別の主人がいるシエルに前の主人が何を言っても意味が無い。
「へ……陛下…… もう終わりです……」
大臣がやんわり王を止めようとするが……
「やかましい! シエルがいなくなったら我が国の軍事的発言権は一気に低下する! それこそ終わりじゃ!」
王様は全く聞く耳を持たない。
「お主が我が国を去れば国民が困窮する! それでもいいのか!」
「はぁ~…… その責務を長年たった一人に押し付けてきたツケが回って来ただけだろ?」
「ぬっ!? きさまカグラバシ・イヅナ!!」
「主さま……」
戦闘が終わったから来てみれば、ま~た駄々こねてるのか。
「国民が困窮しないようにするのが君主の仕事だろ? こんな大規模な違法行為してる暇があったら聖皇教会なり盤面議会なりに支援を貰えるよう外交努力しろよ」
「うっさい! 正論ばかり言うな!」
正論だから言ってるんだろ……
「この分じゃ説得しても諦めてくれそうにないな」
「シエルが戻ればすべてが解決するんじゃ! 諦めるワケないじゃろ!!」
「はぁ~…… じゃ、仕方ないな」
もう脅すしかないじゃん、俺だってこんなコトはしたくない、したくないが……仕方ない、うん。
「シエル、アレやってくれ」
「え? よ……よろしいのですか?」
「よろしいのです、今度は情けをかけずに全部ズバッと」
「わかりました」
ヴゥォン―――
「お……お主らいったい何の話をしておるんじゃ? 何をするつもりじゃ?」
「へ、陛下! お逃げ下さい! 出来れば私も連れて、こ……腰が……ッ!!」
「エルエネミス流剣術・銀鶺鴒」
シュパパッ!!
目にも留まらぬ光速の剣閃、王様と大臣の衣服は粉微塵になりホコリになった。
ちなみにパンツすら残らない完全マッパだ。
「ひ……ひぃぃぃぃぃ!?!?」
「うわぁぁぁぁぁあ!!」
プリっ
「あ……」
「あ……」
「あ~ぁ……」
「………… 無様」
王様はよりにもよってビッグベンを漏らしやがった……
ヌード写真で取引しようと思ってたのに脱糞ショーになってしまった……
「コレはヒドイ、都合いいけど最悪だ」
パシャ♪ パシャ♪
「な……何をしておられるのですか……?」
全裸で女豹みたいなポーズをしている大臣が上目遣いで聞いてくる。
あ~イイすねぇ♪ 視線こっちで小指を咥えてみよっか♪
これが子供サイズの髭面オッサンじゃなく、女の子だったら最高だったのに……
「見て判んない? 写真撮ってるんだよ、あ、写真が判らないか?」
「写真? かつて六英傑の一人が考案した瞬間的に精密な絵を描きだす技術?」
はいはい、写真無双、写真無双。
「なんで汚物にまみれた全裸のおっさん二人を写真に撮ってるか…… 判るよな?」
大臣の顔が真っ青になった…… 王様はさっきからずっと真っ青だ。
まぁ、ビッグベンのおかげでより交渉がしやすくなったと思っておこう。
―――
――
―
その後―――
俺の高度な交渉術により反魔力同盟は無事にギルベリル王国を出ることが出来た。
どのようなやり取りがあったかは割愛させてもらう。
もちろん奴隷契約が切れるまでの10年間、俺に何かがあった時はこの写真が世界中にばら撒かれる手筈を整えることも伝えた。
これで迂闊に手出しはできなくなるだろう……
何というか…… 色んな意味で汚い幕切れだったな……
―― 炭鉱族/ドワーフ 編・完 ――
《特別解説》
『変態仮面』
実写映画化もされたギャグマンガ。女性ものの下着を仮面のように被りブリーフをクロスさせ肩に掛けて着用する。
イメージしにくい人は変態仮面でググろう。
『ビッグベン』
ビッグベン=大便。
世界的観光名所のビッグベンとは何の関係もありません。




