第82話「世界がヤバイ」
異世界生活25日目……
ギルベリル王国脱出作戦決行!
……と、言っても特別なことをするワケじゃない。普通に出て行くだけだ。
色々考えたんだけど出国することに作戦は必要なかった、何故なら昨日剣聖祭が終了したからだ。
お祭りが終われば人は家へ帰る、その人波に乗って一緒に出て行けばいいだけだ。
重要なのはトラブルが起こった時どう対処するかだな。
もちろん何事も無く出て行けるとは思ってないけどね……
―――
朝10時、街が活発に動いている時間に出て行く。
脱出するなら夜も明けきらぬ早朝に出て行くのがセオリーだが今回は無しだ、監視の目が多すぎるからな。
むしろこの時間なら一般人の目撃者が多い、王国側も下手な手出しはしにくいだろう。
「それでは師匠お元気で、いずれまた……」
「はい、随分とご心配をお掛けしたみたいで申し訳ありません、ルーファス様もご健勝であられますよう」
「はい!」
勇者は次に会う時まで勇者でいられるのだろうか? お前は自分の心配をしたほうがいい。
「おいイヅナ、師匠のコトくれぐれも頼んだぞ」
「判ってるって、お前はパパか?」
「?? 弟子だが?」
素で返された、こう真っ直ぐな瞳で返されると反応に困る。
なんか居た堪れない気持ちになったのでさっさと行こう、事前に取り出しておいたキャンピングカーに乗り込む。
このキャンピングカー、ストレージ経由でプレアデスに送り改造も済ませてある。
キララの要望通り運転席を車内に作った、ただその結果……
「わ……私の空よりも濃い青が……」
推進機関であるキララのエアバイクはキャンピングカーと一体化してしまった。
ま、仕方ないな。
「落ち込むなって、またエアバイク見つけたら自分のモノにしていいから」
「むぅ、約束ですからね?」
「あぁ」
そこらへんに落ちてるとは思えないけどな……
勇者たちに別れを告げ、王都から旅立った―――
―――
――
―
出発から5時間…… 今のところ旅は順調だ。
エアカーは普通の馬車とは比べ物にならない速度で進むので国境までもう少し。
未だの追跡者(空船)が付いてきているが、同じ方向へ向かう旅人が多くいる中で手出しはしてこないだろう……
…………
ホントにそうか?
相手は世界中が注目している剣聖祭であれだけ醜態をさらしたギルベリル王国だぜ?
例えるならアイドルのコンサートに全裸乱入した奴が一体なにを恐れるというのだろう? たぶん国家権力以外恐れるモノは無い。
「スゴイですねこの乗り物、もうギルデルタ山脈……」
「ギルデルタ山脈?」
「はい、隣国との国境です、かつては半年に一度は来ていたのですが鶫様が亡くなってからは王国を出る機会が無かったもので…… 450年ぶりくらいでしょうか……」
シエルはマジで閉じ込められてたんだな、まるで鳥籠の鳥だ。
あと…… 今サラッと言ってたけど小鳥遊鶫はやはりこの世界で亡くなったのか、六英傑と称されるほど魔力を高めても帰還は叶わなかったんだな……
魔力を高めれば帰れるって……アレやっぱり嘘なのかな? 説明聞いた時からおかしいとは思っていたが……
「ん?」
「どうしたのご主人様? 運転代わってくれるの?」
「免許無いからムリ」
「ぶ~、ケチ、で? どうしたの?」
「いや…… さっきから対向車がこないなと思ってな……」
「対向車って…… 単純にUターンラッシュだからでしょ?」
「かもしれない……が、国境封鎖の可能性もある」
この先は両側が1000m級の断崖絶壁になっている谷底のような道だ……
そこを塞がれると少し面倒だな。
「どうしよっか? 街道を外れて山脈越えルートにする? 地面に接していないエアカーなら可能だと思うけど、それとも海まで出る?」
「空船が追跡してるからな、下手に一般人の目撃者がいないルートを通るのは向こうの思う壺かもしれん」
考えすぎか? 同じ方向へ向かう旅人や馬車はいるからな。
「このまま進んでくれ、何かあった時はその時考える」
「それって行き当たりばったりって言うんじゃ……」
そして谷間の砦へ差し掛かる。
ここが国境か、すごい渋滞が起きてる、小仏トンネル付近って感じだ、みんなもっと分散しろよ。
道幅は30m程、両側は断崖絶壁の岩壁…… 何という完璧なロケーション、俺に襲撃の指揮権があったら絶対にここで仕掛ける。
あ、ちなみにこの世界の馬車は左側通行です。これも異世界人の影響かね?
「う~ん…… ご主人様の言うとおりだね、不自然なほど対向車がいない……」
ピピッ
「マスター……」
「やはり来たか……」
谷に入って1kmほど進んだ頃だった、まだ辛うじてギルベリル王国領内で前を走っていた馬車が急停止した。
それに反応したかのように列をなしていた馬車から多くの人が下りてきて道を塞ぐ。
それだけじゃない、後ろの馬車からもだ。もっと言えばそこら辺を歩いていた普通の旅人っぽい人たちも……
「あ~…… こいつら全員軍属かよ」
「え?え? ウソでしょ?」
ズズズズズ……!!!!
ズシン! ズシン!
そして止めとばかりに前方から道を塞ぐほど巨大な移動要塞みたいなのが、後ろからはギガンテスがやって来た。
「地上戦艦にギガンテスまで…… 信じられない、ここまでする? 普通……」
「今更だろ……」
『あー あー テステス』
?
『ちゃんと聞こえてるかのう?』
『大丈夫です、喋ってください』
あ、王&大臣の漫才コンビが地上戦艦の甲板に出てきた。
わざわざ出張ってきたのか?
『聞こえているかカグラバシ・イヅナ!』
え? オレ名指しなの?
『よくも計画を台無しにしてくれたな! お前だけは絶対に許さんからなッ!!』
『陛下、予定と違います、ちゃんとコレ読んでください』
『やかましいわ! 懐柔とかせんでいい! 儂はアイツの泣き顔が見たいんじゃ!!』
まるでガキだな…… 炭鉱族ってみんなこんな感じなの? あの王様だけだと思いたい。
『3分だけ時間をやる! シエル返せ! 土下座しろ! え~と…… あとオーパーツ寄こせ!』
3分時間をくれるってゲスな王様っぽいよなぁ、きっといま銃の弾を込め直してるんだ。
しかもついでみたいにオーパーツまで要求するとはなんて厚かましい。
「はぁ…… 主様」
「ん?」
「わたくしのせいでこんな事になってしまって申し訳ございません」
「いやぁ~…… シエルは何も悪くないだろ?」
悪いのは誰がどう見てもあのゲスの王様だ。
「一応交渉してみるか」
期待薄だけど……
ガチャ……
『出てきたなカグラバシ・イヅナ!』
「え~と、国王陛下に置かれましては、ご機嫌麗しく存じます。陛下の……」
『やかましいッッッ!!!!』
うわ~、取り付く島もね~
「こほん、陛下にお伺いしたい、このような暴挙に出られたその理由を……」
『お前がシエルを奪ったからに決まってんだろッ!!』
「ハァ…… アレだけ小賢しい策略を巡らせ、そのうえで負けたのにまだしがみ付くとは、恥の上塗りって言葉知らないのか? そもそも奪われたくなければ外部参加者なんか募らなければよかったのに、身内だけでやってりゃ良かったんだよ……」
『ぐぬぬ…… 昔はそうしてた、だが1年前から魔王軍のアヴァロニア侵攻がこれまで以上に苛烈さを増し盤面議会と聖皇教会からの今までにないほどの圧力を掛けられるようになった。
両組織から色々と支援を受けている我が国は要請を無下に断ることが出来ないんじゃ!』
勇者パーティーもそんな様なコト言ってたな。
そんな立場にありながら、あれだけ露骨な八百長よくできたな、この王様の政治力は間違いなく下位級だな。
『陛下、落ち着いてください』
『あ、大臣! こら! マイクを…… あっ!』
お? ツッコミ担当大臣に代わった、こっちの方がまだ話が通じるかな?
『カグラバシ・イヅナ殿、まず誤解を解いておきたいのだが我々はキミを害するつもりはない』
「ホントに? 王様は害する気満々みたいだけど?」
『陛下は頭がちょっと…… いえ、虫の居所が悪いだけです』
頭がちょっとナニ? なんて言おうとした?
『我々の目的は小鳥遊・シエル・エルエネミスの国内居住です、経済も軍事もそこそこの我が国にとって剣聖最後の直弟子という存在は非常に重要なステータスなのです』
まるで特産品扱いだな。
『キミがこの国に留まるなら爵位を授ける用意がある、どうだろう?』
爵位だって、この国の貴族に成れるってコト?
この国の? 経済も軍事もそこそこ…… 名物・名所も無く…… トップはゲスの王様……
「いらない…… 超いらない」
『なんだとーーー!!』
おっと、思わず心の声が漏れてしまった、王様うっさい割り込むな。
「軍人と兵器で囲んで爵位あげますって言われて誰が信じるんだよ? 明らかに始末して証拠隠滅する気じゃないか」
『それは誤解だ、そんなつもりは毛頭ない』
「だったらそもそもこんな事してていいのか? 俺は勇者ルーファスと顔見知りなんだぜ? 聖皇教会から小鳥遊シエルを独占すんなって言われたんだろ?」
『だから剣聖祭の賞品に渋々ながら奴隷契約書を出した、すでに要請には答えたのだから後は何をやっても文句を言われる筋合いはない』
彼は何であんなに強気なんだろう?
大臣の方が話が通じると思ったんだけど…… どっちもどっちだった。
『キミがこちらの要求に応じなければ…… どうなるかは理解るだろう?』
「脅しじゃねーか」
『これが政治というものだよ』
政治というよりも、他人のオモチャを奪おうとするガキ大将にしか見えない……
自分の思い通りにならないと暴力に訴える……
あれ? そんな奴をよく知ってるぞ? …………ジャイアン?
だったらこっちはひみつ道具で対抗するしかないよね?
「ちょっと相談してきます……」
『お互いが得をする結論を期待していますよ』
脅迫してるクセにいけしゃあしゃあと……
ガチャ…… パタン
「主さま……」
「ご主人様……?」
「はぁ~…… 俺思うんだけどさ、この国滅びていいんじゃないか?」
「マスターの提案…… 賛成」
「は~い、シャロもおにぃちゃんにさんせ~い♪」
俺の愚痴にまさかの賛成票が2票! ギルベリル王国は今まさに滅亡寸前だ。
「ストーップ! ホントに滅ぼせるくらいの力があるんだから冗談でもそうゆうコト言わないの!」
「そ……そうですよ、連合加盟国を滅ぼしたりしたら、この世界に私たちの居場所がなくなっちゃいます!」
「嫌な思い出も多いですけど長く暮らしてきた国が消えるのは寂しい……ですね……」
反対票が3票…… これで3対3、2/3の賛成が得られなかったのでこの提案は否決されました。
危ないところだった、俺の愚痴で世界がヤバイ。
「ベルリネッタ様も、ご主人様のボケに付き合わなくていいですから!」
いや~、ベルリネッタは本気だったと思うぞ。
シャロは俺が言うコトだから深く考えずに賛成しただけだろうけど……
「それでご主人様、どうするの? 状況的に強行突破は難しそうだけど……」
「どうもこうも、とことんヤるしかないだろ」
「主さま、少々お待ちを」
? シエルから待ったが入った、長年仕えてきた国だからフルボッコにするのに抵抗があるのかな?
「主さま、どうかわたくしに剣をお与えください」
「? 何をするつもりだ?」
「このような事態になったのも全てわたくしの責任です、突破口を開きますので主さま方はそのまま進んでください」
つまり囮になるってコトか……
「却下」
「え?」
「何度も言うがシエルは悪くない、悪いのは武力ゴリ押しで不当な要求を飲ませ様としてくる王国側だ。
そもそもこの正当性の欠片もない武力行使は決して他国に知られてはいけない案件だ、つまり絶対に俺たちを逃がさないつもりなんだよ」
左右は断崖絶壁、前後は軍と地上戦艦、上空には空船……
普通に考えれば詰み状態だ。
だが……
「アイツらは少しくらい痛い目みた方がイイと思う」
《特別解説》
『小仏トンネル付近』
渋滞の名所、正月やお盆のUターンピーク時によく聞く。
混むと判っているのに何故みんなその道を行くのか? 地方民には判らない。
『ジャイアン』
恐らく日本一有名なガキ大将。「俺の物は俺の物、お前の物も俺の物」のジャイアニズムも有名。
映画になると男気溢れる良い奴になるらしい。




